ツグナラ
アイデンティティと革新の両立に挑み続ける日本の「伝統的酒造り」
2025.10.03 | 中小企業経営

アイデンティティと革新の両立に挑み続ける日本の「伝統的酒造り」

2024年12月、ユネスコ無形文化遺産に日本の「伝統的酒造り」が登録されました。地域の気候や風土、そして杜氏・蔵人の手作業により生まれる味わいは、長い歴史の中で祭礼行事から日常へと根づき、日本文化を語る上では欠かせない存在として今なお受け継がれています。

2024年12月、ユネスコ無形文化遺産に日本の「伝統的酒造り」が登録されました。地域の気候や風土、そして杜氏・蔵人の手作業により生まれる味わいは、長い歴史の中で祭礼行事から日常へと根づき、日本文化を語る上では欠かせない存在として今なお受け継がれています。

日本の「伝統的酒造り」がユネスコ文化遺産に登録

日本の「伝統的酒造り」とは

今回ユネスコ無形文化遺産に登録された日本における「伝統的酒造り」は、杜氏(とじ/とうじ)や蔵人(くらびと)の手作業により築き上げられた、酒造りの知識や技術を指します

日本の「伝統的酒造り」は、日本の自然から生まれる米や水などの原料や、「麹(こうじ)」と呼ばれる日本にしか生息していない二ホンコウジカビ、そして杜氏・蔵人の経験と手作業により築かれ、現在まで伝わっています。

日本の酒は、独自の製法だけでなく地域の信仰や文化とも深く結びつき、祭礼や祝い事などの節目には欠かせないものとして現代にまで受け継がれてきました。

酒造りの要となる麹菌の働き

日本の伝統的な製法でつくられる酒類には、日本酒、焼酎・泡盛、みりんなどがあります。

酒類ごとに使われる麹の種類は異なり、日本酒には黄麹、焼酎・泡盛には黒麹、みりんには白麹が主に用いられます。

麹菌は、湿度の高い東アジアや東南アジアにのみ生息するカビの一種で約200種類あるとされ、中でも日本の「国菌」とされている「二ホンコウジカビ(学名:アルペルギルス・オリゼー)」は、デンプンやタンパク質の分解に大変優れています。

ワインやビールといった醸造酒の中で、日本酒が飛びぬけて高いアルコール度数になるのは、この麹菌と酵母の働きがあるからです。

原料の黄麹にあたる「二ホンコウジカビ」は、日本酒をはじめ、味噌、酢、甘酒などの発酵食品に用いられており、日本の発酵食文化を語る上では欠かせない存在となっています。

ちなみに、現在は調味料として使われているみりんは、伝統的な製法ではアルコール度14%前後にもなり、16世紀の戦国時代には甘く珍しい高級酒として上流階級で飲用されていたそうです。

安定した品質の酒造りに欠かせない杜氏・蔵元の技

日本の伝統的な酒造りの中でも、特に製造工程が複雑なのは、日本酒づくりです。蒸し米に麹(こうじ)、水、酵母を加えて酒母(酛)をつくり、3回にわたって麹、蒸し米、水を足してもろみを仕込む「三段仕込み」や、麹菌と酵母の働きにより原料の糖化とアルコール発酵を同時に進める「並行複発酵」という工程を経て、半年から1年の熟成期間を経て出荷されます。


日本酒づくりの工程のうち、「並行複発酵」は世界中の酒類の中でも日本酒にしか用いられていない珍しい製法です。

「並行複発酵」は、醸造工程のステップが多く、杜氏や蔵人の経験や技術が不可欠ではありますが、年ごとに米の質が多少異なっても、微生物の働きを制御することで、良質で安定した品質の酒をつくれることが利点となっています。

これらの「伝統的酒造り」の原型は、500年以上前にはすでに確立されていたそうです。

清らかな水と酒米、そして麹菌や酵母による発酵の度合いを見極め制御する杜氏や蔵人の目と丁寧な手作業が、日本の「伝統的酒造り」の核となっています。


「伝統的酒造り」の永続的発展を目指すツグナラ企業2社

日本酒は、これまでは国内消費が中心でしたが、近年の世界的な日本食ブームが追い風となり輸出数が増加しています。

日本の「伝統的酒造り」がユネスコ無形文化遺産として登録されたことで、今後はさらに日本酒への注目が集まると期待されています。

世界のニーズに応えつつ、日本の「伝統的酒造り」を後世に伝えていくためには、伝統的な製法を守るだけでなく、時代に沿う商品サービス提供や、価値創造に挑戦し続ける積極性も必要となります。

世界的にフードダイバーシティ(食の多様性)が加速する中で、伝統と革新の両立を目指し続ける酒蔵のツグナラ企業2社を紹介いたします。

株式会社外池酒造(栃木県)

外池酒造の酒造りを紹介!

  • 清酒「燦爛(さんらん)」「外池AUTHENTIC(とのいけオーセンティック)」「望(ぼう)」をはじめ、本格焼酎「益子の炎」、地元産のゆず、いちご、梨、りんご、桃、ぶどうなどを使ったリキュールを製造販売をおこなう観光酒造
  • 宇都宮で酒蔵を営む家に育った祖父が、独自の酒づくりを目指し1957年に益子町で創業
  • 伝統的な酒造りの技術を学び、下野杜氏と南部杜氏の資格をもつ小野誠さんを筆頭に、精力的に酒造りを行っている
  • 酒蔵資料館やカフェを併設し、益子町の観光名所として地域と酒の魅力を発信し続けている

ツグナラ事務局はここに注目!

益子の観光とまちづくりに貢献し続けている酒造会社様です。

創業期から地域で愛され続ける看板銘柄「燦爛」、最高位ブランド「外池AUTHENTIC」、流通限定ブランド「望:」の展開により、地域資源を活かしながら付加価値を創出しています。
また、栃木県産有機栽培米の「コメ発酵液」を使った酒石鹸や化粧水、栃木の名産とちおとめをイメージしたハンドクリームなど、お土産品に適した酒蔵ならではの製品開発にも力を入れ、酒蔵ツーリズムの活性化にも尽力されています。

栃木の酒米「夢ささら」と、日光連山の地下水脈から流れ出た軟水を使用した「燦爛 純米大吟醸 夢ささら」は、フランスの2022 Kura Masterプレジデント賞1位を受賞し、海外輸出に向けた挑戦も続けられています。

有限会社舩坂酒造(岐阜県)

舩坂酒造の酒造りを紹介!

  • 江戸時代創業の「大文屋」を前身とする200年以上の歴史をもつ造り酒屋
  • 地元で愛される「アリス食堂」をルーツとして結婚式場や旅館を営むアリスグループが、2009年に舩坂酒蔵店を承継
  • 経営理念「笑倍絆醸(しょうばいはんじょう)」、キャッチフレーズ「日本酒のテーマパーク」を軸に「観光×酒蔵」のコンセプトを打ち出す
  • 飛騨の酒米「山田錦」と湧水を使った看板銘柄「大吟醸 四ッ星」、杜氏の技術と創意工夫をすべて注ぎ込んだ純米大吟醸「杜氏 平岡誠治」をはじめ、日本酒を使った果実リキュール、化粧品なども販売
  • 新たな魅力づくりとして、廃校となった旧髙根小学校を「飛騨高山蒸溜所」として再生し、ウイスキーづくりにも挑戦中

ツグナラ事務局はここに注目!

BtoBから、誰もが楽しめる「日本酒のテーマパーク」へと舵を切り、日本酒の魅力を発信し続けているアリスグループの酒造店様です。

フードダイバーシティも視野に入れ、ユダヤ教の方も安心して飲めるようにと「コーシャ認証」を取得した「特別純米 深山菊」も開発されました。

舩坂酒造様は、古くから地元の方に愛されてきた造り酒屋でしたが、後継者不在と経営悪化により

、旅館業などを展開するアリスグループによって引き継がれました。

事業との親和性やシナジーの可能性だけでなく、「地域の財産であり、200年以上にわたり続いた酒屋を途絶えさせてはいけない」という強い思いが、今のとなっています。

番外編:泡盛業界における伝統文化の存在意義と承継すべき理由

続いて、沖縄県の泡盛と地域文化について解説した、連載コラムを紹介いたします。

泡盛業界における伝統文化の存在意義と承継すべき理由(連載第1回)

沖縄県の事業承継に関する意識と廃業件数が多い理由(連載第2回)

地域性を活かした泡盛業界の譲渡事例3選(連載第3回) 

  • 沖縄の伝統文化の象徴である泡盛業界は、アルコール飲料離れの影響により2015年に約154億円あった泡盛の売上高が、10年後には半減するといわれている
  • すでに多くの泡盛製造業者が存続の危機に瀕しており、継続に向けた承継が急がれている
  • 泡盛は、沖縄独自のアイデンティティに深く根ざしていた文化的な遺産であり、地域と伝統文化の再活性化のためには、M&Aなどにより第三者の手が入ることも考えていかねばならない選択肢
  • 泡盛業界での3つの承継事例では、事業承継型M&Aが経済的な取引を超えて、文化遺産を戦略的に維持発展させていく手段となり得ることを紹介

水や酒米などの原料や気候だけでなく、酒造が直面する課題も地域によって少しずつ異なります。沖縄の泡盛は、琉球王朝時代から続く地域文化と沖縄人としてのアイデンティティそのものであり、地域の課題解決や事業承継を目指すうえでは、地域や企業の背景や状況を深く理解する地域企業の存在が不可欠であることがわかります。

おわりに

ユネスコ無形文化遺産に登録された「伝統的酒造り」と、酒造りに携わるツグナラ企業2社、泡盛業界の承継に関するコラムをご紹介しました。

地域の素材と人の手により生まれた日本の「伝統的酒造り」の製法と味わいは、今や世界で愛されるまでになっていることが感じられます。

ユネスコ無形文化遺産への登録を機に、あなたの故郷やご縁のある地域の地酒、そして今につながる歴史を味わってみませんか。


人と経営が見える!ツグナラ企業記事はこちら→https://tgnr.jp/

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地域優良企業(ツグナラ企業)の特徴を独自記事で紹介、地域経営者に役立つ情報を発信することで、地域における人材・販路の開拓の縁結びをお手伝いしています。

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