2024年12月、ユネスコ無形文化遺産に日本の「伝統的酒造り」が登録されました。地域の気候や風土、そして杜氏・蔵人の手作業により生まれる味わいは、長い歴史の中で祭礼行事から日常へと根づき、日本文化を語る上では欠かせない存在として今なお受け継がれています。
2024年12月、ユネスコ無形文化遺産に日本の「伝統的酒造り」が登録されました。地域の気候や風土、そして杜氏・蔵人の手作業により生まれる味わいは、長い歴史の中で祭礼行事から日常へと根づき、日本文化を語る上では欠かせない存在として今なお受け継がれています。
今回ユネスコ無形文化遺産に登録された日本における「伝統的酒造り」は、杜氏(とじ/とうじ)や蔵人(くらびと)の手作業により築き上げられた、酒造りの知識や技術を指します
日本の「伝統的酒造り」は、日本の自然から生まれる米や水などの原料や、「麹(こうじ)」と呼ばれる日本にしか生息していない二ホンコウジカビ、そして杜氏・蔵人の経験と手作業により築かれ、現在まで伝わっています。
日本の酒は、独自の製法だけでなく地域の信仰や文化とも深く結びつき、祭礼や祝い事などの節目には欠かせないものとして現代にまで受け継がれてきました。
日本の伝統的な製法でつくられる酒類には、日本酒、焼酎・泡盛、みりんなどがあります。
酒類ごとに使われる麹の種類は異なり、日本酒には黄麹、焼酎・泡盛には黒麹、みりんには白麹が主に用いられます。
麹菌は、湿度の高い東アジアや東南アジアにのみ生息するカビの一種で約200種類あるとされ、中でも日本の「国菌」とされている「二ホンコウジカビ(学名:アルペルギルス・オリゼー)」は、デンプンやタンパク質の分解に大変優れています。
ワインやビールといった醸造酒の中で、日本酒が飛びぬけて高いアルコール度数になるのは、この麹菌と酵母の働きがあるからです。
原料の黄麹にあたる「二ホンコウジカビ」は、日本酒をはじめ、味噌、酢、甘酒などの発酵食品に用いられており、日本の発酵食文化を語る上では欠かせない存在となっています。
ちなみに、現在は調味料として使われているみりんは、伝統的な製法ではアルコール度14%前後にもなり、16世紀の戦国時代には甘く珍しい高級酒として上流階級で飲用されていたそうです。
日本の伝統的な酒造りの中でも、特に製造工程が複雑なのは、日本酒づくりです。蒸し米に麹(こうじ)、水、酵母を加えて酒母(酛)をつくり、3回にわたって麹、蒸し米、水を足してもろみを仕込む「三段仕込み」や、麹菌と酵母の働きにより原料の糖化とアルコール発酵を同時に進める「並行複発酵」という工程を経て、半年から1年の熟成期間を経て出荷されます。
日本酒づくりの工程のうち、「並行複発酵」は世界中の酒類の中でも日本酒にしか用いられていない珍しい製法です。
「並行複発酵」は、醸造工程のステップが多く、杜氏や蔵人の経験や技術が不可欠ではありますが、年ごとに米の質が多少異なっても、微生物の働きを制御することで、良質で安定した品質の酒をつくれることが利点となっています。
これらの「伝統的酒造り」の原型は、500年以上前にはすでに確立されていたそうです。
清らかな水と酒米、そして麹菌や酵母による発酵の度合いを見極め制御する杜氏や蔵人の目と丁寧な手作業が、日本の「伝統的酒造り」の核となっています。
日本酒は、これまでは国内消費が中心でしたが、近年の世界的な日本食ブームが追い風となり輸出数が増加しています。
日本の「伝統的酒造り」がユネスコ無形文化遺産として登録されたことで、今後はさらに日本酒への注目が集まると期待されています。
世界のニーズに応えつつ、日本の「伝統的酒造り」を後世に伝えていくためには、伝統的な製法を守るだけでなく、時代に沿う商品サービス提供や、価値創造に挑戦し続ける積極性も必要となります。
世界的にフードダイバーシティ(食の多様性)が加速する中で、伝統と革新の両立を目指し続ける酒蔵のツグナラ企業2社を紹介いたします。
外池酒造の酒造りを紹介!
ツグナラ事務局はここに注目!
益子の観光とまちづくりに貢献し続けている酒造会社様です。
創業期から地域で愛され続ける看板銘柄「燦爛」、最高位ブランド「外池AUTHENTIC」、流通限定ブランド「望:」の展開により、地域資源を活かしながら付加価値を創出しています。
また、栃木県産有機栽培米の「コメ発酵液」を使った酒石鹸や化粧水、栃木の名産とちおとめをイメージしたハンドクリームなど、お土産品に適した酒蔵ならではの製品開発にも力を入れ、酒蔵ツーリズムの活性化にも尽力されています。
栃木の酒米「夢ささら」と、日光連山の地下水脈から流れ出た軟水を使用した「燦爛 純米大吟醸 夢ささら」は、フランスの2022 Kura Masterプレジデント賞1位を受賞し、海外輸出に向けた挑戦も続けられています。
舩坂酒造の酒造りを紹介!
ツグナラ事務局はここに注目!
BtoBから、誰もが楽しめる「日本酒のテーマパーク」へと舵を切り、日本酒の魅力を発信し続けているアリスグループの酒造店様です。
フードダイバーシティも視野に入れ、ユダヤ教の方も安心して飲めるようにと「コーシャ認証」を取得した「特別純米 深山菊」も開発されました。
舩坂酒造様は、古くから地元の方に愛されてきた造り酒屋でしたが、後継者不在と経営悪化により
、旅館業などを展開するアリスグループによって引き継がれました。
事業との親和性やシナジーの可能性だけでなく、「地域の財産であり、200年以上にわたり続いた酒屋を途絶えさせてはいけない」という強い思いが、今のとなっています。
続いて、沖縄県の泡盛と地域文化について解説した、連載コラムを紹介いたします。
泡盛業界における伝統文化の存在意義と承継すべき理由(連載第1回)
沖縄県の事業承継に関する意識と廃業件数が多い理由(連載第2回)
水や酒米などの原料や気候だけでなく、酒造が直面する課題も地域によって少しずつ異なります。沖縄の泡盛は、琉球王朝時代から続く地域文化と沖縄人としてのアイデンティティそのものであり、地域の課題解決や事業承継を目指すうえでは、地域や企業の背景や状況を深く理解する地域企業の存在が不可欠であることがわかります。
ユネスコ無形文化遺産に登録された「伝統的酒造り」と、酒造りに携わるツグナラ企業2社、泡盛業界の承継に関するコラムをご紹介しました。
地域の素材と人の手により生まれた日本の「伝統的酒造り」の製法と味わいは、今や世界で愛されるまでになっていることが感じられます。
ユネスコ無形文化遺産への登録を機に、あなたの故郷やご縁のある地域の地酒、そして今につながる歴史を味わってみませんか。
人と経営が見える!ツグナラ企業記事はこちら→https://tgnr.jp/
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