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中小企業経営と財務諸表(5)キャッシュフロー計算書の作り方
2023.09.05 | 中小企業経営

中小企業経営と財務諸表(5)キャッシュフロー計算書の作り方

「なむら経営コンサルタント」の代表で中小企業診断士の南村 恵三 氏による、「中小企業経営と財務諸表」をテーマに解説していく全6回の連載記事です。第5回はキャッシュフロー計算書編の第2弾として、損益計算書と貸借対照表などを用いた作り方について紹介していきます。

「なむら経営コンサルタント」の代表で中小企業診断士の南村 恵三 氏による、「中小企業経営と財務諸表」をテーマに解説していく全6回の連載記事です。第5回はキャッシュフロー計算書編の第2弾として、損益計算書と貸借対照表などを用いた作り方について紹介していきます。

前回の記事ではキャッシュフロー計算書の読み方と分析方法をお伝えしました。今回は、さらに一歩進んで損益計算書と貸借対照表の数字を元に実際にキャッシュフロー計算書を作る方法を解説します。ぜひご自身の会社でも実践できるようにしていただければ幸いです。

●連載:中小企業経営と財務諸表
第1回 今さら聞けない財務諸表の基本
第2回 損益計算書の見方と活用法
第3回 貸借対照表のポイント
第4回 キャッシュフロー計算書の活用法
第5回 本記事
第6回 財務書諸表分析を経営に活かすには?

キャッシュフロー計算書の作成方法

(1)2期分の貸借対照表と1期分の損益計算書から導く

キャッシュフロー計算書は、2期分の貸借対照表と1期分の損益計算書から求めることができます。

まず行うのが営業活動CFの算出で、直接法と間接法の2通りの計算方法があります。

直接法は、営業活動によるキャッシュフローを商品の販売や仕入、給料、経費の支払いなどの主要な取引ごとに表示する方法です。実態を詳細に把握できる反面、作成に膨大な手間がかかります。

一方、間接法は、損益計算書の税引前当期純利益にいくつかの調整項目を加減して表示する方法です。間接法は手間をかけずに作成でき、キャッシュフローと利益との差異の原因を端的に示せるという特徴があります。そのため、多くの企業では間接法を用いてキャッシュフロー計算書を作成しています。

直接法と間接法では営業活動CFの小計を算出するまでのプロセスは違いますが、最終的に営業活動CFとして導き出される値は同じになります。

それでは、資料1~3に示す事例企業の貸借対照表、損益計算書などの情報をもとに、間接法を使って実際にキャッシュフロー計算書を作成してみましょう。

●キャッシュフロー計算書を作るために必要な資料一式

(資料1)貸借対照表                         単位:百万円

資産期首期末負債・資本期首期末
現金・預金450750仕入債務(買掛金)400500
売上債権(売掛金)500650短期借入金200250
有価証券450350長期借入金600500
棚卸資産400350資本金1,0001,000
有形固定資産1,3001,300利益剰余金300450
減価償却累計額▲600▲700
小計2,5002,700小計2,5002,700

(資料2)今期の損益計算書                         単位:百万円

売上高3,600
売上原価3,190
 売上高総利益410
販管費(減価償却費)100
 営業利益310
営業外費用(有価証券売却損)10
 税引前当期純利益300
 法人税、住民税及び事業税150
 当期純利益150

(資料3)

今期に帳簿価額1億円の有価証券を9,000万円で売却

(2)キャッシュフロー計算書の作成手順

1.営業活動CFを算出する

間接法で営業活動CFを導き出すには、まずは(資料2)今期の損益計算書にある「税引前当期純利益300」「販管費(減価償却)100」「営業外費用(有価証券売価損)10」の3つの項目を合計します。合計したものは営業活動CFの小計となり、この表を元に導き出すと「410(4億1,000万円)」となります。

営業活動CFの小計=税引前当期純利益+販管費(減価償却費)+営業外費用(有価証券売価損)


営業活動CFの小計を出したら、次に(資料1)貸借対照表にある2期分の運転資金の増減額に対する影響を考慮します。運転資金の増減額の求め方は、期末金額から期首金額を引くことで求められます。売上債権と棚卸資産なら、増加したらマイナス、減少したらプラス、仕入債務では増加したらプラス、減少したらマイナスの符号を付けて計算します。

符号の考え方は少し難しいと思いますが、運転資金の増減がキャッシュに対して有利か不利かで考えると分かりやすいです。

(資料1)貸借対照表の場合は、「売上債権(売掛金)の増加額▲150」+「棚卸資産の減少額50」+「仕入債務の増加額100」=「運転資金増加額0」という形で導き出せます。

●プラスとマイナスの符号の考え方
・売上債権の増減額=期末金額ー期首金額(増えればマイナスで減ればプラス)
・棚卸資産の増減額=期末金額ー期首金額(増えればマイナスで減ればプラス)
・仕入債務の増減額=期末金額ー期首金額(増えればプラスで減ればマイナス)

運転資金増減額=売上債権の増減額+棚卸資産の増減額+仕入債務の増減額

最後に、(資料2)今期の損益計算書の「法人税、住民税及び事業税(▲150)」を営業活動CFの小計に加算し、営業活動CFは260(2億6,000万円)となります。

営業活動CF=営業活動CFの小計+法人税、住民税及び事業税

ここでポイントになるのが、(資料2)の損益計算書上で費用としていた「販管費(減価償却費)100」や「営業外費用(有価証券売却損)10」の扱いです。この2つは現金の支出を伴っていないので、キャッシュフロー計算書では「税引前当期純利益」に加算します。今回の例では0円でしたが、「運転資金増減額」を加算することもポイントです。

2.投資活動CFを算出する

資料3から「帳簿価額1億円」の有価証券を9,000万円で売却し、会社に「90(9,000万円)」入ったことが分かります。したがってキャッシュフロー計算書においては、売却により会社に入ってきた現金である「90(9,000万円)」が投資活動CFとなります。

3.財務活動CFを算出する

財務活動CFは、(資料1)貸借対照表の「短期借入金」による収入「(期末)短期借入金250-(期首)短期借入金200=50」、「長期借入金の返済」による支出「(期末)長期借入金500-(期首)長期借入金600=▲100」があり、そこから導き出すと財務活動CFは「▲50(5,000万円)」となります。

財務活動CF=「短期借入金」による収入+「長期借入金の返済」による支出

4.現金及び現金同等物の増減額を算出する

ここまで計算してきた営業活動CF(260)」、投資活動CF(90)、財務活動CF(▲50)を合算した「現金及び現金同等物の増減額」は、「300(3億円)」となります。「現金及び現金同等物」は(資料1)貸借対照表の現金・預金に相当し、期首は「450(4億5,000万円)」ですので、期末は「750(7億5,000万円)」となります。

 (3)作成したキャッシュフロー計算書から会社の状態を分析する        

このように貸借対照表と損益計算書からキャッシュフロー計算書を作成できます。これらをまとめたものが表1です。

表1 キャッシュフロー計算書の作成結果 単位:百万円

営業活動CF
 税引前当期純利益300
 減価償却費100
 有価証券売却損10
 売上債権の増加額▲150
 棚卸資産の減少額50
 仕入債務の増加額100
 小計410
 法人税等の支払額▲150
営業活動CF260
投資活動CF
有価証券の売却による収入90
投資活動CF90
財務活動CF
 短期借入金の借り入れによる収入50
 長期借入金の返済による支出▲100
財務活動CF▲50
現金及び現金同等物の増減額300
現金及び現金同等物の期首残高450
現金及び現金同等物の期末残高750

前回の記事で紹介した3つのキャッシュフローを元に、この会社の状態を分析するなら「本業による利益をあげつつ、保有資産を売却しながら借入金の返済などを行っている会社」となり、財務の健全化を図っている状態と判断できます。

より細かく見ていくと、まず営業活動CFでは、売上債権が「▲150(1億5,000万円)」ということから、回収できていない売上代金があることが分かります。現時点では、営業活動CFがプラスなので心配する必要はありませんが、この売上債権が大きくなれば、売上を出しているにもかかわらず、会社に現金がない状態になりかねないので注意が必要です。

また、棚卸資産が減少している点は、在庫が売れて会社に現金が「50(5,000万円)入ったことを意味しています。在庫は将来、会社に利益をもたらす可能性がある資産ですが、キャッシュフロー計算書においては、棚卸資産が増えることはマイナス値としてなります。もし棚卸資産の数値が大きくマイナスで、営業活動CFもマイナスであれば、過剰に在庫を抱えていないかなどのチェックポイントになります。

投資活動CFについては、プラスとマイナスのどちらがいいというわけではないので、内容を見て判断する必要があります。今回のケースでは、投資活動CFで得たプラス分とほぼ同額が、財務活動CFで「長期借入金の返済による支出▲100(1億円)」として計上されていることから、この返済にあてるために有価証券を売却したのではないかという見方ができます。

最終的に「現金及び現金同等物の増減額」が「300(3億円)」とプラスになっていることから、現金に余裕があり、順調な経営状態であることが分かります。

このようにキャッシュフロー計算書を作成することで、自社がどんな状態にあるのかを「お金の流れ」から端的に把握することができます。そこで異変に気付けば、在庫や売上債権を抱え過ぎていないか、過剰な投資を行っていないかなど、経営上の課題や問題点を抽出し、経営改善に向けた対策を講じることができます。

次回のコラムでは、これまで本連載の総まとめとして、財務諸表分析を中小企業経営に活かす方法について解説いたします。

※本記事の著者は地域の事業承継をサポートする「ツグナラ専門家」として登録されています

なむら経営コンサルタント(茨城県・牛久市)

●連載:中小企業経営と財務諸表
第1回 今さら聞けない財務諸表の基本
第2回 損益計算書の見方と活用法
第3回 貸借対照表のポイント
第4回 キャッシュフロー計算書の活用法
第5回 本記事

南村 恵三
Writer 南村 恵三
南村 恵三
Writer 南村 恵三
代表
中小企業診断士、MBA(経営情報修士)、ITコーディネータ、宅地建物取引士、AFP
大手ITベンダー(NEC)に就職し、大手通信会社のシステム開発に従事後、2020年にMBA学位取得、2020年5月に中小企業診断士登録、2020年8月経営コンサルタントして独立開業。2022年12月に中小企業庁により、認定経営革新等支援機関(認定支援機関ID:107708000110)に認定。経営革新支援、M&A支援、早期経営改善計画、マーケティング、生産性向上、DX支援などを中心に、経営者の話に傾聴しながら課題設定を行うことが強みである。
人材育成には積極的に貢献しており、中小企業診断士資格取得を目指す受験生向け教科書の作成、ポリテクセンター茨城での求職者訓練、また小中学生向けの英語教室や高校受験塾を経営し、自ら各種講師を担当している。

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