―今回の事業譲受に至ったきっかけをお伺いします
サクシードの担当者からこのツグナラサイトで記事を見た方からご指名いただいてますと言われたことがきっかけです。今まで事業引受け依頼のお話は数々いただいていますが、このツグナラは特に地域内でのマッチングに力を入れているので、お相手からご指名をいただいた以上、しっかりお話を聞くべきだと思いました。
ネームクリア(譲渡対象となる企業名を買い手候補企業に開示すること)後、企業概要書を拝見しました。お相手は県北エリアで経営をされている有限会社平成ハウジング様で、事業の一つであるバウムクーヘンの製造販売事業"樹凛"についてのご相談でした。
ー話を聞いた時のお気持ちは?
私たちは海外(ベトナム)でも展開していますが、店舗の多くは宇都宮市内で、事業としても理容・美容がメインなので、県北エリアの異業種の方からご指名いただいたことに驚きました。ツグナラでは私のパーソナルな部分や、弊社の人財育成、美容業界についての内容を掲載していたので、お相手にとって弊社の魅力をどんなイメージで感じ取っていただけたのだろうと、なぜか逆に興味が湧いてきました。あと、直接譲渡を検討されている方からご指名いただくのは、仲介をするアドバイザーからの紹介とは違った嬉しさがあります。
お相手からのこの事業譲渡での一番の要望は従業員の継続雇用、そしてその後の育成でした。確かに弊社は人財を第一に考え「人を大切にする経営」を行っています。理容・美容以外の事業展開を行っているのも、まさに従業員の生涯雇用の環境を提供したいという思いから始まっています。その従業員にフォーカスした経営を行っていることがご指名いただいた理由の一つでした。
お互い主軸の事業は食品製造・販売ではありませんが、事業戦略として食品に携わっている理由には共通点がありました。それは、雇用創出や従業員の働く領域の拡大など、まさに"人"であるということです。もちろん、譲受する立場としてはこの事業の事業価値や今後どのくらい売上を作っていけるかを考えるのは当然ですが、それ以上に事業を経営していくうえで何を一番大切にしているか、ここを双方が共感し合えることが重要だと考えます。その考え方の基盤となる部分をM&Aの工程としては序盤である企業概要書を拝見するタイミングで理解できたのは地元企業同士での案件だったからなのかなと思っています。
ー食品ならどんなものでもよいわけではないですよね
もちろんです。弊社のビジネスポリシーに「三面美養」(外面(ビジュアル)・内面(健康)・精神面(心)を美しく養う)があります。こちらは理容・美容以外の事業でも同じで、以前立ち上げたカフェ事業でもこのポリシーのもとに運営をしています。
異業種参入や新規ビジネスは既存事業の延長上にあるものなのか、全く別ブランドとして運営するのかはそれぞれですが、私は既存事業との親和性という観点を大切にしています。弊社としては「三面美養」に基づいてなければなりません。
"樹凛"のバウムクーヘンは小麦粉ではなく米粉からつくられています。米粉を含め、たまごや季節に合わせた食材の全てが地元農家から仕入れています。健康志向への取り組みは弊社のポリシーと通ずるものがありました。正直米粉でなければこのお話しは断っていたと思います。
ー樹凛の全スタッフを引き受けられた理由について教えてください
お相手様の一番の要望だったこともありますが、それ以外にも、樹凛のバウムクーヘンの味が非常に良く特徴でもある、断面の樹木のような年輪に焦げが見られない、まさに最高品質のものであったことが全スタッフを引き受けた理由です。米粉を原材料にすると焼の工程の難易度が上がることは知っていましたので、樹凛スタッフのスキルの高さが商品に現れていると食べた瞬間わかりました。私たちは理容・美容のプロであっても菓子製造のプロではありませんので、樹凛スタッフのスキルや人間力は魅力的でした。
ーあえてお伺いします。クロージングまでにご苦労させたことはありますか
トップ面談で初めて石槻社長と専務の奥様とお話しました。樹凛はご夫婦でゼロから立ち上げた事業であること、従業員や取引先、お客様と全てのステークホルダーを気にかけていること、そして商品への愛をお伺いしました。ビジネスなので引き受けた後のシナジー効果も総美有限会社のトップとして考えなければなりません。先方からのバトンを受け継いだ時、総合的に考えて正解だったと思えるのか自問自答の毎日でした。苦労というと少し違いますが、シンプルに「何のために引き継ぐのか」と毎日考えていました。
石槻社長から、樹凛についてその財務状況や商品そしてスタッフなど俯瞰して見てくださいとお言葉を頂きました。経営者同士ですからこちらが何で悩んでいるか、わかるんですよね。
トップ面談の時に私たちが引き受けた場合の販路拡大のイメージをお話ししました。その構想へのアドバイスとして、石槻社長が樹凛を立ち上げた際に思い描かれていたビジョンをお話されました。今思えばなんですが、トップ面談時に譲受側と譲渡側が譲渡対象事業についてそのビジネスモデルを一緒に考えることは、珍しいのではないかと思います。
ー経営資源を引き継ぐ決め手は何だったのでしょうか
樹凛のバームクーヘンがその答えです。味・品質の良い商品は簡単には出来ません。その商品に関わる全ての人の人間力があって良品が出来ます。この良品が世からなくなってはもったいない、栃木にこんなにも美味しくて健康に良いものがあることを全国の方に知ってもらいたい、と思いました。
ーどんなシナジー効果が得られますか
異業種展開は弊社にとっては自社領域の拡大につながり、今後の成長戦略には欠かせません。弊社は理容・美容事業のみというイメージが地域の方々に強くあります。今回の事例はビジュアルだけではなく、内面的な健康やバームクーヘンを食べた時の感動・満足感など心に安らぎを提供する企業として、皆さんに知っていただく良い機会となりました。同じ理容・美容業界の方にとっては、新たなビジネスモデルの参考として見ていただければ幸いですし、今後異業種展開にチャレンジされる方にはその背中を押すきっかけとなれば嬉しいです。
実は2022年2月8日にバウムハウスJURIN 宇都宮店をオープンしました。事業譲渡式が2021年9月30日でしたから、約3カ月で新規事業の多店舗展開が実現しました。私の友人など周りの方はそのスピード感に驚いていましたが、地域密着のマッチングで双方が納得のいく落としどころを見つけてクロージングできたからこそ次の一手を早く打ち出せたのだと思います。
ーツグナラ企業として今思うことは何でしょうか
事業承継に関する課題解決には地域が一体となって取り組まなければならないと考えています。地域にある貴重な財産にも拘らず、ただ手放してしまうと結論を出す経営者も多いです。私たちツグナラ企業はその声を聞く第一人者としてあり続けなくてはなりません。
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