ポストコロナの中小企業経営にとってカギになるのが「人」にフォーカスした人的資本経営です。コロナ禍によりもたらされた劇的な環境の変化に対して、「人」を活かす経営で危機を乗り越えた企業を事例に、中小企業の人的資本経営の取り組み方を解説します。
ポストコロナの中小企業経営にとってカギになるのが「人」にフォーカスした人的資本経営です。コロナ禍によりもたらされた劇的な環境の変化に対して、「人」を活かす経営で危機を乗り越えた企業を事例に、中小企業の人的資本経営の取り組み方を解説します。
前回は「パーパス経営」についてお話させていただきました。今回は少しテーマを絞って「人」にフォーカスし、ポストコロナの企業経営について解説していきます。
●連載:ポストコロナの中小企業経営
第1回 なぜ今パーパス経営が求められるのか?
第2回 【本記事】
コロナ禍が落ち着き、ようやく経済が回りはじめました。しかし、どの業界でもコロナ禍以前と同様通りとはいかない苦しい状況が続いています。
例えば印刷や紙業界は、コロナ禍において感染症対策の側面からイベントや催事が減ったことで、チラシやパンフレットなどの需要が大きく減少しました。さらにコロナ禍の3年間でSDGsやカーボンニュートラルへの意識がより高まったことによる印刷物離れや、エネルギー価格の高騰もあり、厳しい状況はより一層深刻化しています。
また、地域の製造業も新型コロナの影響で大きなダメージを受けています。コロナ禍前に多額の資金を投じて設備が導入した企業は少なくありませんが、新型コロナが落ち着けば需要は元に戻るだろうという期待に反し、稼働していない設備は数多くあります。例えば製造業の中でも自動車関連の業界で言うと、この3年間でさらに進んだEVシフトにより、億単位の投資で導入した設備が全く役に立たなくなる可能性が出てきています。多額の資金を投じた最新の設備も、稼働させられなければただの重荷です。コロナ禍が過ぎ去るのを待ち、事業構造改革や新たな取り組みを行わなかった会社には厳しい状況が続くでしょう。
しかし、厳しい状況の中でも、ポストコロナに向けて環境適応し、業績を向上させている企業もあります。共通しているのは、事業モデルを転換したり、新しい事業を始めるなど、早い段階からポストコロナへの準備をしていたという点です。さらに深く見ていくと、経営者をはじめ働く社員である「人」が、コロナ禍前とは大きく変わっているという共通点に気付きます。これがポストコロナの経営を考えていく上でのカギです。コロナ禍においても環境適応できた会社とは、「人」が創造的な取り組みを行い、環境に適応する商品やサービスを生み出せた会社ばかりでした。
例えばコロナ禍で大打撃を受け倒産寸前まで追い込まれた、長野県にある旅館はその典型です。社員全員は、一時的に他業種へ働きに出て、厳しい時期を乗り越えました。その間、旅館自体はポストコロナを見据えてリニューアルを行いました。今ではその成果が発揮され、旅館の予約はコロナ禍前より増加し、予約が取れない状況が続いています。さらに、他業種に働きに出たことで得た知見やノウハウが活かされ、旅館の閑散期にシロアリ駆除や建物のメンテナンスを行う新たな事業が生まれました。
最近よく「人を重視した経営はどのような流れで業績が向上していくのか?」という質問を頂きます。そのポイントになるのが、社員のモチベーションです。以下の図は社員のモチベーションと業績向上へのプロセスを図にしたものになります。
そもそも社員のモチベーションが上がり、日々創造的業務に取り組むことで、新たな価値を持つ商品やサービスが生まれ、さらには既存商品の改善なども同時に行われていくようになります。このことから、社員のモチベーションは、業績向上のための大きな推進力だといえます。
こうした取り組みによる変化に対してお客様は敏感です。「最近○○は元気がいいね」「商品がちょっと変わってきましたね」と言われることも増えてきます。その結果、お客様からの良い口コミや満足度が向上していきます。自分や自社が評価されれば、さらに頑張ろうと思うのが人情です。自ずとスキルや仕事の品質は向上していきます。その結果、会社に恒常的な企画力、開発力が備わっていくことになります。社員のモチベーションを業績の向上に繋げるにはこのサイクルがきちんと繋がるための取り組みが必要になります。
業績向上には一連の新たな価値創造のプロセスが欠かせません。そして業績が向上すれば賃上げや福利厚生への投資が可能になります。その結果、社員はより帰属意識も高まり、会社をより成長させれば自分の人生もよくなると、さらにモチベーションが向上し、さらに新たな価値向上が進むという好循環が出来上がっていきます。
しかし、ポストコロナの経営をうまく進めいくには社員モチベーションを向上させていくだけでは足りません。雇用の流動化がより活発になってきているからです。
テレワーク、ジョブ型雇用や副業制度など、一人ひとりのスキルに合わせた働き方を考えることも重要な取り組みになります。特に若手の人財確保はより困難を極めるでしょう。人生100年時代においては、入った会社で一生働くという考え方が過去のものになりつつあります。スキルアップの支援においても、生涯にわたって活用できる専門的なスキルや経験ができる会社にしていかないと、いくらお金を払っても、いい人材を採用できなくなるでしょう。当然給与体系もこれまでのような年功的な賃金体系ではなく、働きに見合った柔軟な仕組みに変えていく必要があります。
ポストコロナではいかに「人」にフォーカスした経営を行っていけるかがカギです。ポストコロナの時代で成長していく会社は軒並みそうなっていくでしょう。
人をひきつけ、活躍しやすい環境を整えた会社が飛躍し、そうでない会社は成長が難しくなります。そのためにはまず、「人」への投資が欠かせません。
投資といっても、多額の資金を投じなくてもできる取り組みは数限りなく考えられます。例えばある会社では、コロナで希薄化した社員と会社の関係性を再構築するために、誕生日に自宅にケーキ送るようにしました。そして誕生日当日には、社内SNSで総務から全体に「今日は○○さんのお誕生日です。おめでとうございます!」とお祝いの言葉を届けています。その書き込みに気づいた他の社員たちからも、当然お祝いの言葉が寄せられます。ささやかなことではありますが、誕生日というその人が生まれた日を社員全員で共有し、おめでとうを伝え合うことで希薄になった関係性も深まることとなりました。
こうした取り組みを「手間のかかる時代遅れの取り組み」と思う方もいるかもしれませんが、「人」が資本であると思うのであれば、人に対して手間暇をかけるというのは当たり前です。大きく変化する環境に対応してくれる存在は唯一「人」しかありません。
ポストコロナの厳しい時代で経営を進めていく上で、「人」を大切にする経営は必須です。とはいえ構えることはなく、まずは何らかの形で社員のモチベーションを上げる施策から始めてみてはいかがでしょうか。
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