コロナ禍を経て、M&Aは事業承継の有用な手段として浸透し、中小・小規模事業者にとっていよいよ身近なものとなりました。M&Aに興味のある買手・売手に向けておおまかなプロセスや心構えについて解説します。
コロナ禍を経て、M&Aは事業承継の有用な手段として浸透し、中小・小規模事業者にとっていよいよ身近なものとなりました。M&Aに興味のある買手・売手に向けておおまかなプロセスや心構えについて解説します。
近年、M&Aは中小企業の抱える事業承継の課題解決に繋がる有用な手段として浸透し、M&Aの相談窓口や支援機関も増えてきていることから、実施件数も右肩上がりに増えてきています。
M&A情報・データサイト「マールオンライン」によると、2020年のM&A件数は、コロナ禍の経済低迷に伴い3730件で8.8%減となりましたが、2021年には4280件で14.7%増加となり、2年振りに最多件数を更新しました。コロナ禍を機に各企業で事業の見直しが図られ、非中核事業の売却や新規事業への投資が進むなど、アフターコロナを見据えた最適化の動きがあったものと想定されます。この動きがM&Aをさらに活発化させる要因にもなりました。後継者不足、慢性的な人財不足等の課題は今後も続いていくことから、M&A件数も増加していく見込みとなっています。
M&Aがいよいよ身近になものになり、より具体的に知りたいという方もいらっしゃるのではないでしょうか。今回はM&Aのおおまかな流れや、売手・買手それぞれの注意点や心構えについて解説していきます。
M&Aは、大まかには①準備 ②マッチング・交渉 ③最終契約の3つのフェーズに分けられます。M&Aにかかる期間は、会社の規模や交渉の進み具合等にもよりますが、第三者の支援を得て進める場合はおおむね半年から1年程度、長い場合は2年程かかることもあります。
フェーズごとにさまざまな手続きが必要となり手間や時間もかかるため、初めてM&Aを検討されている場合は、仲介業者や専門家のサポートを受けながら進めていく方が確実です。
M&Aの流れは以下の通りです。売手は(売)、買手は(買)表記としています。
買手側としては技術や製造ノウハウを得たい、営業拠点が欲しいなど、自社事業を拡大する選択肢の一つとしてM&Aを検討されている企業も多いのではないでしょうか。しかしM&Aで譲り受けるその会社や事業は、売り手側の社員が総力を以て維持発展させてきた、何よりも大切な資産であることを忘れないで下さい。売手側の経営者は、従業員の譲渡後の待遇を気にかける方がほとんどであり、提示する買収金額の高低よりも、買手側の従業員に対する考え方や事業戦略から将来性を見据え、会社・事業・従業員を大切にしてくれるのかを判断しています。買手側は、売手側のその想いに見合った誠実さを示す必要があります。しかし将来的な確約は誰にもできません。だからこそ、経営者の価値観や経営哲学の根幹であり指針にもなっている「理念」を互いに知り、会社や事業、従業員を大切にできるかを、両者が真剣に理解し合おうとする姿勢が大切になっていきます。特に買手は譲受側になることから、率先して売手側の想いに寄り添い、信頼関係を構築しながら安心してもらえるような心配りも必要になります。実際に、売手と買手が互いの理念に深く共感し、M&A成約に至った事例もあります。
買手、売手が双方の企業文化や考え方、理念を知る機会としては、「M&Aの流れ」で前述した①の準備フェーズにある案件概要書(IM)共有後に、約1ヵ月間売り手側の経営者に質問できる期間があります。トップ面談前に売り手側から情報を得られる大切な期間であり、この期間をより有効的に使うには、質問リストを作成して売り手企業に聞きたいことを可視化し、情報を整理してから売り手企業に提示することをお勧めします。経営者としての生き方や企業文化が近ければ、承継後もうまく引き継げる可能性は高く、相乗効果により期待以上の成長を見込めるかもしれません。
また買い手側としては、既存取引先との契約内容や不良資産、簿外債務など、売り手側のマイナス部分も気になるところではありますが、デリケートな質問はデューデリジェンスのフェーズで専門家を通じて確認した方が角が立たずに済みます。いずれにしても、売り手側の負担にならないような気配りが必要です。
譲渡側がM&A前にできることは、赤字や債務超過を放置せず要因を説明できるようにしておくこと、自社株式を可能な限り集約することです。
赤字や債務超過があってもM&Aで譲渡できるケースはありますが、M&Aを選択するのはあくまで買手側の判断であることを意識しておく必要があります。自社の現状を明らかにすることは、買手だけではなく譲渡される従業員や株主、取引先の今後のためにも大切な準備であり、損失の要因がわかれば、買手側が改善策や解決策を見つけやすくなります。
また、M&A前に自社株式を集約しておけば、M&Aの期間が短くなるとともに事業継続に伴う負担も減り、買手側もスムーズに承継することができます。通常、買手側は売手側株式の100%買い集めを目指すことから、事前に整理を進めておけば買手の手間も減り、好印象を抱いてもらえるはずです。ただし、贈与税や相続税の価額はタイミングにより異なり、買手候補がいない状況下での株式集約はリスクも伴うため、専門家とともに計画的に進めていくのがベストです。
そして最も大事なのは、③最終契約フェーズにある、従業員への「ディスクロージャー(情報開示)」です。特に中小・小規模企業では、長年にわたり会社を支えてきた幹部社員、ベテラン社員への伝え方に気を付ける必要があります。M&Aに関して従業員が特に気にするのは「M&Aを選択した理由」「今後の従業員の処遇」であり、説明の際は買手側にも同席してもらい、従業員の不安や疑問を解消しながら、統合を前向きに捉えられるようにしていくことが大事です。PMI(M&A買収後の経営統合、業務統合、意識統合のプロセス)や今後の従業員の士気にも関わるため、このフェーズでは根気よく従業員に向き合っていくことが大切です。
中小・小規模企業とのM&Aでは、金額や数字などでは表せない部分への互いへの理解度や真摯な姿勢が成功に大きく関わり、買手・売手両者が自社事業に真剣に向き合い、互いの今後のために最善を尽くすことが成功へのステップとなります。M&Aを検討し始めた場合には、早々に準備を始めることをお勧め致します。
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