M&Aで異業種である製造業から建設業界に飛び込んだ若手経営者がいます。M&Aから3年が経ち、その社長は建設業界向けの新聞で特集されるほどに注目される存在になりました。異業種から参入という高い壁を乗り越えて、同業者同士の結び付きが強い業界に溶け込めた証左だといえます。若手経営者はなぜ建設業界に受け入れられたのか?このM&Aに携ったM&Aアドバイザーが解説していきます。
M&Aで異業種である製造業から建設業界に飛び込んだ若手経営者がいます。M&Aから3年が経ち、その社長は建設業界向けの新聞で特集されるほどに注目される存在になりました。異業種から参入という高い壁を乗り越えて、同業者同士の結び付きが強い業界に溶け込めた証左だといえます。若手経営者はなぜ建設業界に受け入れられたのか?このM&Aに携ったM&Aアドバイザーが解説していきます。
建設業界向けの新聞を読んでいたところ「若手経営者に聞く」という特集コーナーに、よく知る社長・Aさんが取り上げられていました。元々製造業を営む社長で、3年前にM&Aにより異業種から建設業の引継ぎを行った方です。
Aさんは、10年、20年先を見据える中で、現状の製造業に加えて新たな事業の柱を築きたいという意図から建設業に関心を持ちはじめました。程なく後継者不在で困っている建設業に出会います。トップ面談を重ねて、双方の思いや仕事観などを理解する中で、異業種とはいえ、共にものづくりに係わる企業同士、実現したいことが共通していることに気付き、事業承継を決断しました。
建設業は様々な業種の中でも地域の中小企業同士の結びつきが強い業界で、異業種からの新規参入は大きなチャレンジでした。引継ぎからわずか3年後には業界から注目される存在となったということは、地域の企業とのコミュニケーションを大切にし、自ら率先して社交の場に出ていったことで受け入れられた証拠でしょう。
そうした努力の他にも、Aさん固有の3つのポイントが大きく影響しているのではないかと私は見ています。
●連載:円満な事業承継の秘訣 全3回
第1回 事業譲渡した社長の本音
第2回 【本記事】
第3回 M&Aで成功できる社長の考え方
日本国内の中小企業の事業承継問題の中でも、土木・建設業における引継ぎの難しさは他の業種と比較してもとりわけ高いと言えます。なぜなら、主に公共工事を入札する土木工事の場合、必ず有資格者を複数名置く必要があります。さらに地位承継について業歴などの縛りが非常に多く、引継ぎ先候補が自ずと限られるです。
同業による引継ぎでもいろいろな障壁がある中で、資格取得などの苦労を考えれば異業種からの参入は、仮に強い意欲があってもきわめて困難だといえます。
また、土木・建設業では、いわゆる「3K(きつい・汚い・危険)」という現場のイメージが根強く残っており、新規創業が少ない傾向があります。加えて地域に根差した土木・建設業は、ベテラン経営者たちによる横の繋がりが強固にでき上がっており、若手や異業種からの参入のハードルは一層高くなっています。
しかし、Aさんの場合は、それらの諸々の困難を理解し、乗り越えた上で参入しました。そこまでの覚悟と熱意を持って参入したAさんの決断は、きわめて稀なケースであり、譲り手企業の経営者をはじめ、多くの建設業界関係者が思わず応援したくなるほどの尊いものだったと言えます。
覚悟と熱意に加えて、この若手経営者が建設業界に受け入れられた2つ目の理由が、製造業で既に経験していたDX化のノウハウです。
昨今の企業経営においては積極的なDXの推進が求められており、それは建設業も例外ではありません。しかし、建設業の中でも地域の中小企業となると、DX化がうまくいっているケースは非常に少なく、いまだに昔ながらの紙伝票や手書きの工事完了報告書が使われているのが現状です。
Aさんは、事業引継ぎ完了後、当然のこととしてDX化を一気に進めました。祖業の製造業においても、製造工程をデジタル管理し、見積もりや受発注についてもシステム化することに取り組んだノウハウを存分に生かし、同様の事業プロセス革新を進めました。。前述のとおり紙や手書きが根強く残っている地域の建設業界からすると、Aさんがまるで魔法使いのように見えたかもしれません。業界の当たり前に甘んじたり、縛られなかったのは、異業種からの参入がプラスに働いたともいえます。こうした取り組みの積み重ねにより、Aさんは、地域のみならず、建設業界全体の中でも注目される存在になっていったのです。
上記のような業界事情や、新社長の革新的な経営戦略があったとしても、それだけでは地域の横のつながりが強い業界においては、必ずしも歓迎されるとは限りません。ましてや業界新聞に特集されるような経営者になるためには、地域における評判や業界内での立ち位置なども含めて、一定の評価が必要です。Aさんはなぜそうなれたのでしょうか?
私が考える最大の要因は、Aさんの人柄です。常に謙虚で、地域の同業社長と話す時には「仕事を教えていただく」という姿勢で一貫しています。実際にAさんは「業界に憧れて入ってきた新米経営者」というマインドを持ち続けていています。この姿勢が、受け入れる側からすれば「新規参入してきた脅威」として映らなかった要因でしょう。
地域の中小企業経営は、その地域や業種ならではの暗黙のルールなどが存在します。M&Aなどで新たに参入していくケースでは、A社長の事例にあるような熱意、革新性、人柄といった要素を組み合わせ、事業の再構築と地域への浸透を図っていることは一つの最適解であるかもしれません。
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