円満な事業承継にするためにもっとも大事なこととは何なのでしょうか。多くの会社のM&Aをアドバイザーとして関与してきたコンサルタントが、譲り手(売り手)企業の社長から聞いた本音をご紹介していきます。
円満な事業承継にするためにもっとも大事なこととは何なのでしょうか。多くの会社のM&Aをアドバイザーとして関与してきたコンサルタントが、譲り手(売り手)企業の社長から聞いた本音をご紹介していきます。
いい会社への経営戦略、事業承継に強いコンサルティング会社サクシードでM&Aアドバイザーをしている市川です。
先日、創業から25年間社長業をつとめ、地元で活躍する若手経営者に事業を引き継いだ前社長の話を伺ってきました。
「今までの生活が一変しました。社長時代は売上や資金繰り、社員の給与やボーナスのことを常に考える生活だったので、全く別の人生を生きているようです。何よりも社員全員が新社長のもとでイキイキ働いていますし、いいタイミングで事業を引き継げて本当によかったです」
M&A後3か月のサポート期間を終えた68歳の社長は、晴々とした表情で奥様とともに私に話をしてくれました。最初に事業承継の相談を受けてから、約半年間でのM&Aの成約でしたが、一番心配だったことを聞くと、
「それはもう、社員のことに決まっています。先方の社員ともうまくいかなかったらどうしようという不安はもちろんありました。でも、先方の社長さんや社員さんが勉強熱心で、異業種であった我々のビジネスを、一生懸命本気で学んでくれました。そのおかげで、お互いの信頼関係が短期間で築けたのだと思います」
例え、同業種であったとしても、仕事の考え方やオペレーションは企業ごとに全く異なります。そのためM&Aではお互いの仕事を理解し合うことが何よりも大切です。
もし、受け手(買い手)企業が、「買収したんだから、自分たちのやり方に従ってもらう」というような考え方では、両社にとって喜ばしい引き継ぎにはなりません。あくまでも、M&Aにおける引き継ぎは受け手、譲り手(売り手)の共同作業であり、お互いの今までの仕事に対するリスペクトのもとに成り立ちます。
●連載:円満な事業承継の秘訣 全3回
第1回 【本記事】
第2回 異業種から参入した若手経営者
第3回 M&Aで成功できる社長の考え方
今回のM&Aでは、譲り手の社長が一番心配であった社員の引き継ぎについて、受け手の社長や社員が丁寧に向き合い、異業種であるビジネスを深く理解しようとした姿勢がポイントだったと言えます。
一般的なM&Aのノウハウ本には、「事業価値算定方法」「デューデリジェンスの方法」「投資回収の目安」などのトピックスが先行していますが、実際の中小企業のM&Aの現場では、知識やスキルよりも、実は相手を思い、理解しようとする考え方を持っているかどうかが重要となります。そしてM&Aを成功させている社長は共通して温かい考え方をお持ちです。
今、日本国内の中小企業では後継者不足による事業承継問題が大きな課題です。補助金を含めて数々の行政施策が打ち出されていますが、未だに根本解決できるほどのM&A成約件数になっていないのは、上記のような受け手企業の「理解しようとする姿勢」が乏しいことも要因の1つであるといえます。
譲り手となる中小企業の社長が一番重要視しているポイントは、お金ではなく、「この社長になら託せる」という思いなのです。
今回、引継ぎ後3か月たった元社長の本音を聞くと、事業承継型M&Aを成功させるには、買収金額の交渉よりもいかに信頼関係が大切であるかということを改めて実感しました。
冒頭で取り上げた68歳で引退と会社の引継ぎを決断された譲り手企業の前社長は、今はご夫婦で旅行に行ける時間が持てるようになったそうです。このようなM&A案件は、新聞紙面やテレビ、ネットメディアを飾るような大きな市場インパクトを伴うM&Aではないかもしれません。しかし、地域からすれば地元で働く社員が安心でき、同じ地域で活躍する受け手企業に引き継がれるM&Aの方が本当に地域に望まれる事業承継なのではないかと考えています。譲り手、受け手だけではなく、地域社会も含めて歓迎されるM&Aとは何なのかを今後も追求していきます。
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