「業界研究シリーズ」として毎回様々な業界の現状とビジネスモデル、課題、M&Aの動向を解説していきます。第1回として取り上げるのは、EC市場の拡大に伴いニーズが高まる物流・運送業界です。業界における喫緊の課題である2024年問題やM&Aの動向を紹介していきましょう。
「業界研究シリーズ」として毎回様々な業界の現状とビジネスモデル、課題、M&Aの動向を解説していきます。第1回として取り上げるのは、EC市場の拡大に伴いニーズが高まる物流・運送業界です。業界における喫緊の課題である2024年問題やM&Aの動向を紹介していきましょう。
インターネット通販(EC)の普及・浸透に伴うニーズの増加、新型コロナウィルスの感染拡大が世界的な落ち着きを見せつつある中での経済活動の回復を背景に、物流業界全体はB2Cは堅調に回復中ですが、B2Bはコロナ禍で大幅に減少した売上が回復せずに業績不振が続いています。
矢野総合研究所が発表した調査データによれば、物流業界全体の市場規模は、2020年度の20兆円台から、2021年度には21兆円台(見込み)まで回復しました。さらに22年度、23年度については22兆円台まで拡大していくと予測されています。とりわけEC市場が拡大している中では、宅配便や軽貨物輸送などは堅調に推移していく見込みです。
物流業界は、単純化すれば「荷物を運んで運送料をもらう」というビジネスモデルになりますが、細分化すると6つの工程で成り立っています。具体的には「輸送」「保管」「荷役」「包装」「流通加工」「情報管理」の6つが挙げられます。
「輸送」…車、鉄道、船舶、航空機などを使って荷物を運ぶ工程
「保管」…荷物を倉庫などで適切な方法で預かる工程
「荷役」…車、鉄道、船舶、航空機などから荷物を積み下ろす工程
「包装」…梱包材を活用して荷物を包む工程
「流通加工」…ラベル貼りや値札付け、箱詰めなど、商品に付加価値をつける工程
「情報管理」…効率的な輸送ルートや荷物・顧客情報などをIT技術を活用して管理する工程
これらの各工程を複合的、総合的に担う企業もありますが、各工程をより細分化して生まれる専門性を強みにしている中小企業が多いのが物流業界の特徴です。物流業とひとくちにいっても、トラックを使った「輸送」を専門にする企業があれば、倉庫などで「保管」「包装」「流通加工」などを得意とする企業もあります。
さらに「輸送」だけを見ても、物流センターなどの拠点までを運ぶ工程を「輸送」(一次輸送)、拠点から最終目的地に運ぶ工程を「配送」(二次輸送)と言うなど、それぞれの工程を専門的に担う企業もあります。ちなみにトラックや車を使って輸送することを一般的には「運送」と言っています。
また、物流業界において最も事業者が多いのが「運送業(トラック輸送業)」で、全体の8割を占めています。
続いて運送業界のビジネスモデルを見ていきましょう。冒頭で「荷物を運んで運送料をもらう」と書きましたが、ことはそう単純ではありません。利益を上げていくためには、1台の車が1回の運行でどれだけ多くの荷物を運べるのかという観点で、実車率や積載率、稼働率といったKPIの指標を上げていくことが重要になります。
なお、実車率とは、トラックが走行した距離のうち実際に貨物を積載して走行した距離の比率のことを指します。積載率なら、トラックの最大積載重量に対して、実際に積載した貨物の重量の比率を意味します。稼働率については、対象期間のうち、トラックが実際に稼働した時間や日数の割合です。
このように定量化していくことで、自社の事業の生産性や効率性、課題などが明らかになっていきます。
主なKPIの計算式
実車率=実車距離 ÷ 総走行距離 × 100
積載率=積載重量 ÷ 最大積載重量 × 100
稼働率=稼働時間 ÷ 対象期間の総時間 × 100
具体的な例を出して説明すると、青森県から東京都まで荷物を運ぶ案件があったとしましょう。往路は青森でトラックの最大積載量ギリギリの荷物を運んだとして、東京からの復路で何も荷物を積まない「空車」で帰ったとしたら、復路のガソリン代などで無駄な経費を出すことになります。もし、東京から青森の復路で別の顧客から荷物を預かることができれば、往復でも売上が立ち、実車率、積載率、稼働率の各KPIが向上します。運送業界自体、プレイヤー数が多く、価格競争になっていることもあり、「マイナス」にしないために各社知恵と工夫を凝らしているのが現状です。
例に出した青森~東京間で運行しているような企業の場合、福島、宮城、岩手など間に拠点を増やして各拠点間の運送を行えるようにしたり、1回の運行の積載率をあげるために同業者と協力して、荷物をシェアするような取り組みをするなどをしています。
現在、運送業界が抱えている問題には、慢性的な人手不足とドライバーの高齢化が挙げられます。人手不足の背景には、日本社会の少子高齢化による人口減少に加えて、長時間労働が常態化するドライバーの過酷な労働環境により、新たな担い手が集まりにくい状況があります。そして、既存のドライバーの高齢化も進んでいるのが現状です。
それに加えて「2024年問題」という喫緊の課題にも向き合わなくてはいけません。「2024年問題」とは、自動車運転業務の年間時間外労働時間の上限が960時間に法律で制限されることによって発生する諸問題の総称です。運送業界で常態化しているドライバーの長時間労働を是正し、労働環境の改善を目指した前向きな取り組みになるのですが、さまざまな問題が懸念されています。
まず1つ目が割増賃金率の引き上げによる運送業者の利益の減少が挙げられます。これまで中小企業における時間外労働の割増賃金率は25%でしたが、2024年の法施行以降は50%に引き上げられるため、対策が間に合わなければ減益に直結します。また、これに関連して企業が割増賃金率への対応のためにドライバーの労働時間を減少させることで収入の減少も起こりえます。さらには法令順守するためにドライバーを増員する必要があるものの、折からの人手不足もあり、今までなら引き受けることができた仕事を断らざるを得ない状況にもなりかねません。
これらの課題解決に向けて注目されているのが、DX化や自動化です。車両情報(位置情報、積載率、実車率など)の入手できる環境を整備して、より効率的な運行を実現したり、隊列走行や自動走行などを用いた新たな物流システム構築に向けた動きが活発化しています。一方で、そうした取り組みが実用化されるにはまだもう少し時間が必要なため、現在、活発化しているのがM&Aになります。
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物流業界がひと足早く直面する2024年問題とは
実際、複数のM&A仲介会社の調査によれば物流業界のM&A件数は増加傾向にあるとされています。物流業界でM&Aが注目され、活発化しているのは、これまでに取り上げてきた課題解決に繋がる明確な理由があります。
●引継ぎ手(買い手)ニーズ
・2024年問題対策として拠点を増やしたい企業が時間をかけず比較的低いリスクで新エリアに展開できる
・M&Aにより社員を引継ぐことで運送業界が抱える慢性的な人手不足の解消に繋げられる
・今後ますます厳しくなる外部環境に備えて、会社の規模を短期間で大きくしたい企業にとってはM&Aが最も時間がかからない選択肢になる
●譲り手(売り手)ニーズ
・親族や社内に後継者候補がいない企業にとってはM&Aが後継者問題の解決策になる
・今後の運送業界はよりスケールメリットが出やすくなるため、M&Aで大きな組織や地域の有力な企業に加わることで経営状況の改善が見込める
・2024年問題を目前に控えて会社の引継ぎを検討しはじめている
ビジネスモデルの項で述べたとおり、運送業界で今度、成長していくには、効率化は避けて通れませんし、人手不足という大きな課題に対応するためにも集約化や、IT化・自動化は必須です。そうした対応をよりスピーディーに行っていく上では、人財、顧客、拠点を引継げるM&Aへの注目度は高いといえます。
●運送業界のツグナラ企業一例(引継ぎ実績あり)
東京・東亜物流株式会社
「物流業者」というエッセンシャルワーカーの社会的地位向上を目指す企業
栃木県・エヌエヌ商事株式会社
栃木・株式会社八下田陸運
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