中小企業にとって身近な地域の「金融機関」と、全国に拠点のある公的機関「事業承継・引継ぎ支援センター」のM&A機能の特徴を紹介します。
中小企業にとって身近な地域の「金融機関」と、全国に拠点のある公的機関「事業承継・引継ぎ支援センター」のM&A機能の特徴を紹介します。
前回のコラムでは、地域の中小企業がM&Aの際に利用しやすい4つの窓口のうち「M&A仲介業者」について解説しました。第2回となる今回は「金融機関」「事業承継・引継ぎセンター」について解説いたします。
●連載:中小企業向けのM&A相談先はどこ?―4つの窓口を紹介―
第1回 国内M&Aの傾向と「M&A仲介会社」の特徴
第2回 本記事
第3回 地域の中小企業の可能性を広げる「M&Aプラットフォーム」のすすめ
地方銀行をはじめとした地域の金融機関でも、M&Aアドバイザリー業務を担当する部署が新設されるなど、M&A機能の拡充に向けた動きが活発になってきています。これまで金融機関では、M&Aは利益相反取引(複数の当事者がいる取引において一方が有利になり他方が不利益を被ること)となるため消極的な姿勢のところも多く、預金を受け入れる機関としての健全性を保つため、金融業務以外の事業開拓をすることは許されていませんでした。
しかし、融資先であり顧客でもある中小企業の後継者問題が深刻化し、さらにコロナ禍による経済停滞もあって金融機関側の変革が推し進められることとなり、金融庁は地域の経済活動を支える金融機関の収益機会を増やし経営基盤を整える目的で2021年5月に「改正銀行法」を制定しました。これにより金融機関の業務範囲の規制が緩和され、各機関の工夫次第で多様な事業拡大が可能となっています。現時点ではITシステム販売、マーケティング、登録型人材派遣の業務が可能であり、今後も事業領域は拡大されると推測されます。
こういった経緯により、各金融機関では事業領域を模索するとともに既存のネットワークにM&Aの専門性を加えた相談窓口としての機能が拡充されつつあり、地域企業の皆様が日頃お世話になっている銀行などでもこの動きは始まっています。M&Aを検討しているのであれば、取引のある銀行に相談するのも一つの手段です。情報交換する機会を多く設けるほか取引や関係性を継続する姿勢を大切にすることで、親身に相談に乗ってくれるはずです。
ただし、以下3点について注意が必要です。
①債務免除が前提となっている再生型M&Aは利益相反になる
会社の売却代金だけでは返済しきれないほど多額の借入をしている状態での買い手探しは、金融機関にとっては利益相反となり、通常は引き受けてくれません。あくまで銀行の本業は「融資」にあることを意識する必要があります。
②M&A情報管理は本部担当者が行っている
金融機関は支店毎にテリトリーがあり、それを統括する本部担当者が情報管理を行っているケースがほとんどです。M&Aに関する情報は機密性が高いため、支店担当者ですら開示されていない場合があり、本部担当者に繋いでもらえるように支店担当者、支店長と関係性を築いていくことが重要となります。
③融資取引の継続する姿勢
金融機関の本業は融資業務であり、M&Aの実施により取引先が無くなってしまうことや、金利が安いからといって大手金融機関からM&Aの資金調達をすることは地域の金融機関にとって損失に繋がるため好まれません。金融機関にM&Aの相談をする際は、自社都合で取引をやめないという姿勢が大事です。
国が設置する公的相談窓口「事業承継・引継ぎ支援センター」は、事業承継をワンストップで支援する目的で設立された機関です。第三者承継を支援してきた「事業引継ぎセンター」と、主に親族内承継を支援してきた「事業承継ネットワーク」の機能が統合され、2021年にオープンされました。同センターには、起業を志望する人材と後継者を求める事業主とのマッチングや、後継者の育成を支援する「後継者人材バンク」事業も展開しており、中小企業や小規模事業者の事業承継を多角的に支援しています。
登録や情報収集は基本的に無料のため利用しやすく、全国47都道府県に設置されていることから、各エリア内だけではなく遠隔地間のマッチングにも対応しています。寄せられる案件も多く、M&A成約件数が金融機関や専門家よりも多いセンターもあります。
また、各センターには中小企業診断士や税理士、公認会計士や金融機関のOBが在籍し、企業に合ったアドバイスや支援を受けられるほか、公的機関として中立性が徹底されていることからセカンドオピニオンとしても活用できるなど、信頼性が高いことが最大のメリットとなっています。
全国から多くの案件が寄せられる同センターで情報収集する際のポイントは、下記の通りです。自社の将来像が定まっていない場合も相談は可能ですが、膨大な案件の中から自社に合う企業を見つけ出すためには、やはり明確な展望を持ち得た方が円滑なマッチングに繋がります。
①定期的に訪れ、案件化されたばかりの意欲的な企業をチェックする
②他地域進出を検討している場合は、自社商圏だけではなく希望地域でも登録する
一方、事業承継・引継ぎセンターを利用する際の注意点としては、下記事項が挙げられます。
①取り扱う案件は売り手側の小規模企業がほとんど
②事業承継・引継ぎ支援センターは、各地域の機関や団体の連携により成り立っているため、エリアによっては支援内容が異なる場合がある
③公的機関のため案件の取捨選択がない
④限られた人員で多くの事業承継の相談を受けていることから、民間アドバイザリーのような手厚いサービスは得られにくい
事業承継・引継ぎセンターでも今後さらにM&A案件の増加が見込まれ、それに伴いサービスの拡充が必要となることから、民間アドバイザリーとの連携が強化されていく見通しです。
次回は、地域の中小企業がM&Aの際に利用しやすい4つの窓口のうち「M&Aプラットフォーム」について解説いたします。
この著者によるコラム
ほかのコンサルタントコラム
© Copyright 2024 TGNR Nara All rights reserved. "ツグナラ" and logomark / logotype is registered trademark.