事業再構築補助金の新年度の制度は、「売上減少要件」が撤廃されるとの情報から、この要件をクリアできずにこれまで申請できなかった有望な企業の利用が期待されていました。しかし蓋を開けてみると、申請できる業種・業態があらかじめ指定されており、申請事業の間口が返って狭まったように見受けられます。このコラムでは新たな事業再構築補助金の制度の変更点について説明します。
事業再構築補助金の新年度の制度は、「売上減少要件」が撤廃されるとの情報から、この要件をクリアできずにこれまで申請できなかった有望な企業の利用が期待されていました。しかし蓋を開けてみると、申請できる業種・業態があらかじめ指定されており、申請事業の間口が返って狭まったように見受けられます。このコラムでは新たな事業再構築補助金の制度の変更点について説明します。
新型コロナウイルス感染拡大に伴う中小企業の業績低迷を受けて2021年から始まった「事業再構築補助金」が、大幅にリニューアルして2023年度も継続されることになりました。当初は2022年度で終了予定でしたが、新型コロナウイルスから派生した原油価格・物価高騰や円安の進行による中小企業の業績への影響を鑑みて継続が決定した運びです。
予算規模も5,800億円(2022年度2次補正予算)と2021年度とほぼ同規模の予算が割り当てられています。2022年度補正予算の概要発表時は、「売上10%減少要件」が撤廃されるという触れ込みから、この要件を満たせず補助金申請ができなかった有望企業の利用が期待されていました。しかしふたを開けてみると、申請要件のハードルが一段と上がったように見受けられます。代替案はあるものの、中小企業、特に小規模事業者での対応が難しい制度になっています。本稿では、大幅に変更になった新年度予算の事業再構築補助金を2つのポイントに絞って解説していきます。
1つ目のポイントは、類型(要件別の申請領域)の改変です。新たに市場が縮小している業界から別の業界に進出する場合に利用可能な「産業構造転換枠」と、海外生産拠点から国内に工場等を移設(国内回帰)しサプライチェーン全体の活性化に取り組む「サプライチェーン強靭化枠」が新設されました。そして従前の制度で最も申請件数の多かった通常枠が新制度では「成長枠」に変更となり、補助率と補助上限額にも変更が行われました。今回、申請のハードルがさらに上がったのがこの成長枠の申請要件である「市場規模拡大要件」です。
「事業再構築補助金」2023年度の全8類型と概要
「事業再構築補助金」公式サイトより抜粋
成長枠
成長分野に向けた大胆な事業再構築に取り組む事業者を対象とした「成長枠」により、最大7,000万円まで支援します。
グリーン成長枠
グリーン分野での事業再構築を通じて高い成長を目指す事業者を対象とした「グリーン成長枠」に要件を緩和した類型(エントリー)を創設し、支援します。
卒業促進枠
成長枠・グリーン成長枠の補助事業を通して、中小企業等から中堅企業等に成長する事業者に対し、補助金額を上乗せして支援します。(大規模賃金引上促進枠との併用はできません。)
大規模賃金引上促進枠
成長枠・グリーン成長枠の補助事業を通して、大規模な賃上げに取り組む事業者に対し、補助金額を上乗せして支援します。(卒業促進枠との併用はできません。)
産業構造転換枠
国内市場の縮小等の産業構造の変化等により、事業再構築が強く求められる業種・業態の事業者にを対象とした「産業構造転換枠」にて、補助率を引き上げる等により、重点的に支援します。
対象経費に廃業費を追加し、廃業費がある場合は補助上限額を上乗せします。
物価高騰対策・回復再生応援枠
コロナや物価高等により依然として業況が厳しい事業者に対して、支援を継続します。
第9回公募までの、回復・再生応援枠と緊急対策枠を統合し、新たに「物価高騰対策・回復再生応援枠」として設置します。
最低賃金枠
最低賃金の引上げの影響を受け、その原資の確保が困難な特に業況の厳しい中小企業等を対象とした「最低賃金枠」を設け、補助率を引き上げます。「最低賃金枠」は、加点措置を行い、物価高騰対策・回復再生応援枠に比べて採択率において優遇されます。
サプライチェーン強靱化枠
海外で製造する部品等の国内回帰を進め、国内サプライチェーンの強靱化及び地域産業の活性化に取り組む事業者を対象として「サプライチェーン強靱化枠」を新設し、補助上限額を最大5億円まで引き上げて支援します。
「事業再構築補助金」2023年度の各類型の対象・補助上限・補助率一覧 その1
「事業再構築補助金」2023年度の各類型の対象・補助上限・補助率一覧 その2
「事業再構築補助金」2023年度の各類型の対象・補助上限・補助率一覧 その3
市場規模拡大要件の概要
「市場規模拡大要件」とは、成長枠にのみ定められた要件で、新たに取り組む事業が、市場規模の拡大が見込まれる業種・業態に該当する場合に、申請が可能となる要件です。対象となる業種・業態には、国が定めた109業種が列挙され、この「成長枠の対象となる業種・業態の一覧」に当てはまる新事業を行う場合には問題なく申請が可能となります。
しかし、業種・業態の一覧に該当しない事業で成長枠を活用する場合は、「過去又は今後10年間でその市場規模が10%以上増加することを証明」しなければなりません。この証明となる根拠として、総務省や経済産業省等の統計資料のほか、業界団体や信頼性の高い第三者機関が公表している業界レポート等も認めるとしています。ただ成長枠での申請を行う場合、このエビデンス資料を作成するためのリサーチが中小企業経営者を悩ませるであろうポイントであり、成長枠申請のハードルを上げている要因でもあります。これまでは申請のための要件を明示してくれていた補助金制度ですが、今回の改定は企業への「丸投げ」感が否めず、煩雑度合いが増し利用しづらい制度にしている印象があります。
「成長枠の対象となる業種・業態の一覧」その1
分類コード | 産業分類(小分類) | サプライチェーン強靱化枠の対象 |
91 | 畜産食料品製造業 | ○ |
94 | 調味料製造業 | ○ |
97 | パン・菓子製造業 | ○ |
98 | 動植物油脂製造業 | ○ |
99 | その他の食料品製造業 | ○ |
104 | 製氷業 | ○ |
115 | 綱・網・レース・繊維粗製品製造業 | ○ |
119 | その他の繊維製品製造業 | ○ |
122 | 造作材・合板・建築用組立材料製造業 | ○ |
131 | 家具製造業 | ○ |
139 | その他の家具・装備品製造業 | ○ |
145 | 紙製容器製造業 | ○ |
149 | その他のパルプ・紙・紙加工品製造業 | ○ |
159 | 印刷関連サービス業 | ○ |
162 | 無機化学工業製品製造業 | ○ |
164 | 油脂加工製品・石けん・合成洗剤・界面活性剤・塗料製造業 | ○ |
165 | 医薬品製造業 | ○ |
166 | 化粧品・歯磨・その他の化粧用調整品製造業 | ○ |
169 | その他の化学工業 | ○ |
172 | 潤滑油・グリース製造業(石油精製業によらないもの) | ○ |
181 | プラスチック板・棒・管・継手・異形押出製品製造業 | ○ |
182 | プラスチックフィルム・シート・床材・合成皮革製造業 | ○ |
183 | 工業用プラスチック製品製造業 | ○ |
184 | 発泡・強化プラスチック製品製造業 | ○ |
185 | プラスチック成形材料製造業(廃プラスチックを含む | ○ |
189 | その他のプラスチック製品製造業 | ○ |
191 | タイヤ・チューブ製造業 | ○ |
193 | ゴムベルト・ゴムホース・工業用ゴム製品製造業 | ○ |
202 | 工業用革製品製造業(手袋を除く) | ○ |
206 | かばん製造業 | ○ |
209 | その他のなめし革製品製造業 | ○ |
212 | セメント・同製品製造業 | ○ |
214 | 陶磁器・同関連製品製造業 | ○ |
215 | 耐火物製造業 | ○ |
216 | 炭素・黒鉛製品製造業 | ○ |
217 | 研磨材・同製品製造業 | ○ |
219 | その他の窯業・土石製品製造業 | ○ |
229 | その他の鉄鋼業 | ○ |
231 | 非鉄金属第1次製錬・精製業 | ○ |
232 | 非鉄金属第2次製錬・精製業(非鉄金属合金製造業を含む) | ○ |
233 | 非鉄金属・同合金圧延業(抽伸、押出しを含む) | ○ |
235 | 非鉄金属素形材製造業 | ○ |
242 | 洋食器・刃物・手道具・金物類製造業 | ○ |
243 | 暖房・調理等装置、配管工事用附属品製造業 | ○ |
244 | 建設用・建築用金属製品製造業(製缶板金業を含む) | ○ |
245 | 金属素形材製品製造業 | ○ |
246 | 金属被覆・彫刻業、熱処理業(ほうろう鉄器を除く) | ○ |
247 | 金属線製品製造業(ねじ類を除く) | ○ |
248 | ボルト・ナット・リベット・小ねじ・木ねじ等製造業 | ○ |
249 | その他の金属製品製造業 | ○ |
251 | ボイラ・原動機製造業 | ○ |
252 | ポンプ・圧縮機器製造業 | ○ |
253 | 一般産業用機械・装置製造業 | ○ |
「成長枠の対象となる業種・業態の一覧」その2
分類コード | 産業分類(小分類) | サプライチェーン強靱化枠の対象 |
261 | 農業用機械製造業(農業用器具を除く) | ○ |
262 | 建設機械・鉱山機械製造業 | ○ |
263 | 繊維機械製造業 | ○ |
264 | 生活関連産業用機械製造業 | ○ |
265 | 基礎素材産業用機械製造業 | ○ |
266 | 金属加工機械製造業 | ○ |
267 | 半導体・フラットパネルディスプレイ製造装置製造業 | ○ |
269 | その他の生産用機械・同部分品製造業 | ○ |
273 | 計量器・測定器・分析機器・試験機・測量機械器具・理化学機械器具製造業 | ○ |
274 | 医療用機械器具・医療用品製造業 | ○ |
282 | 電子部品製造業 | ○ |
284 | 電子回路製造業 | ○ |
285 | ユニット部品製造業 | ○ |
291 | 発電用・送電用・配電用電気機械器具製造業 | ○ |
292 | 産業用電気機械器具製造業 | ○ |
293 | 民生用電気機械器具製造業 | ○ |
294 | 電球・電気照明器具製造業 | ○ |
295 | 電池製造業 | ○ |
297 | 電気計測器製造業 | ○ |
311 | 自動車・同附属品製造業 | ○ |
312 | 鉄道車両・同部分品製造業 | ○ |
314 | 航空機・同附属品製造業 | ○ |
315 | 産業用運搬車両・同部分品・附属品製造業 | ○ |
319 | その他の輸送用機械器具製造業 | ○ |
326 | ペン・鉛筆・絵画用品・その他の事務用品製造業 | ○ |
328 | 畳等生活雑貨製品製造業 | ○ |
329 | 他に分類されない製造業 | ○ |
331 | 電気業 | |
341 | ガス業 | |
391 | ソフトウェア業 | |
392 | 情報処理・提供サービス業] | |
401 | インターネット附随サービス業 | |
511 | 繊維品卸売業(衣服、身の回り品を除く) | |
521 | 農畜産物・水産物卸売業 | |
522 | 食料・飲料卸売業531建築材料卸売業 | |
532 | 化学製品卸売業 | |
541 | 産業機械器具卸売業 | |
542 | 自動車卸売業 | |
543 | 電気機械器具卸売業 | |
549 | その他の機械器具卸売業 | |
551 | 家具・建具・じゅう器等卸売業 | |
552 | 医薬品・化粧品等卸売業 | |
559 | その他の卸売業 | |
603 | 医薬品・化粧品小売業 | |
702 | 産業用機械器具賃貸業 | |
704 | 自動車賃貸業 | |
705 | スポーツ・娯楽用品賃貸業 | |
743 | 機械設計業 | |
744 | 商品・非破壊検査業 | |
745 | 計量証明業 | |
746 | 写真業 | |
801 | 映画館 | |
805 | 公園、遊園地 | |
911 | 職業紹介業 | |
912 | 労働者派遣業 |
2つ目のポイントは、成長枠、グリーン成長枠において「給与支給総額増額要件」が追加されたことです。従前の制度では、最低賃金の引き上げと従業員の増員の要件が一部の申請枠に設けられていましたが、今回、給与支給総額を増額させる(給与を年率平均2%以上増加させる)という要件が初めて設けられました。これは、昨今の物価・原油価格の高騰に伴い、国がインフレ率を上回る賃上げを経済界に要請してきたことに端を発します。物価等が高騰している中で打開策を見いだせない企業を補助金で支援する代わりに、賃上げを促進させようという、ある意味釣り餌的な制度となっています。
とはいえ、やはり事業再構築補助金が、苦境に立たされている中小企業の救済措置として有益であることは論をまちません。国の賃上げ要請に応えるためには、企業の自助努力だけでは困難であり、補助金の活用は企業の業績回復対策への後押しになりえます。補助金を活用したいがための新事業展開は本末転倒ですが、経営人生をかけて何かを始めたいと考えている経営者様がどうすれば補助金を活用できるのか、補助金専門家に相談いただければ打開策が見いだせることと思います。事業再構築補助金は2023年度に4回程度の申請が予定されています。私は弊社・サクシードにて中小企業の補助金申請を支援していますが、この申請機会に少しでも多くの企業にこの制度を認知し活用していただくため、補助金支援に邁進していきたいと思います。
●中小企業経営者で補助金に興味がある・詳しい話を聞きたい方は下記までお問い合わせください
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