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ゼロから学ぶカーボンニュートラルの基礎知識/中小企業とGX(1)
2023.07.07 | 中小企業経営

ゼロから学ぶカーボンニュートラルの基礎知識/中小企業とGX(1)

昨今、大きな注目を集めている「カーボンニュートラル」の基本を踏まえながら、中小企業が取り組むべき脱炭素経営について解説していきます。なお、本記事は「中小企業とGX(グリーントランスフォーメーション)」と題した全3回の連載記事の第1回目となります。

昨今、大きな注目を集めている「カーボンニュートラル」の基本を踏まえながら、中小企業が取り組むべき脱炭素経営について解説していきます。なお、本記事は「中小企業とGX(グリーントランスフォーメーション)」と題した全3回の連載記事の第1回目となります。

「カーボンニュートラル」と「脱炭素経営」と「GX」

「カーボンニュートラル」という言葉は、多くの人がどこかしらで見聞きしたことがあると思います。しかし、この言葉を正確に説明できる方は決して多くないでしょう。さらに「脱炭素経営」「GX(グリーントランスフォーメーション)」など、類似した概念もあり、いっそう理解が難しくなっているように思います。本題に入る前にまずは各概念の定義から整理していきましょう。

●連載:中小企業とGX
第1回:【本記事】
第2回:脱炭素経営のはじめ方
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「カーボンニュートラル」とは?

「カーボンニュートラル」とは、温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させることで、実質ゼロにする取り組みを指します。なお、温室効果ガスにはメタン、一酸化二窒素、フロンなども含まれていますが、構成割合の約3/4を二酸化炭素が占めているため、本記事では「温室効果ガス≒二酸化炭素」という解釈で話を進めていきます。
「カーボンニュートラル」でポイントとなるのは、ただ二酸化炭素の排出量を減らすのではなく、排出量を吸収量で相殺し、「実質ゼロ」、つまり「ニュートラル」を目指すという部分です。吸収量を増やす活動としては、植林や森林管理などの取り組みが挙げられます。

「脱炭素経営」とは?

続いてはカーボンニュートラルとセットで使われることも多い「脱炭素経営」です。まず、「脱炭素」という言葉ですが、「ニュートラル」と違い、温室効果ガスの排出量そのものを減らし、「脱」すなわち「ゼロにすること」を指します。そして、「脱炭素経営」という言葉は、「気候変動対策(=脱炭素)の視点を織り込んだ企業経営」となります。基盤となるのは、気候変動に起因する未来のリスク対策を重要な経営課題ととらえ、全社を挙げて取り組むという考え方です。従来の気候変動対策は単なるコストというとらえ方が一般的でした。脱炭素経営においては、未来の利益に繋がる投資という解釈がなされ、会社を成長させるチャンスととらえられています。

「GX(グリーントランスフォーメーション)」とは?

最後に「GX(グリーントランスフォーメーション)」は、脱炭素社会の実現に向けた、経済社会システム全体の変革のことを指します。「脱炭素経営」が目的であり、その手段として「GX(グリーントランスフォーメーション)」を進めていくことが求められています。

混同しやすい「カーボンニュートラル」「脱炭素経営」「GX(グリーントランスフォーメーション)」の3つの言葉を説明しましたが、次はこれらの言葉が生まれた背景を見ていきます。

なぜ今、「カーボンニュートラル」なのか?

現在、「カーボンニュートラル」が注目されている理由には、地球温暖化の影響による気候変動の深刻化が挙げられます。地球温暖化に対する懸念の声は30年以上前から挙がっていましたが、世界の平均気温は止まることなく上昇が続いてきました。

このまま何の対策もせずに温室効果ガスを排出し続けると、気候変動による悪影響のリスクが高まる基準値を、2030年から2050年にかけて超えると言われています。

その結果、豪雨や猛暑などによる自然災害のリスクが高まり、自然生態系への影響、食料不足、水不足など、人類の生活に大きな影響を与えると考えられています。
2015年にパリ協定が採択され、世界共通の長期目標として合意されたのが、「世界の気温上昇を産業革命前と比べて、2度を十分下回り、できれば1.5度に抑える」という目標です。温度を下げるためには、温室効果ガスの排出量を「実質ゼロ」にする必要があります。その時に出てきたのが、温室効果ガスの排出量と除去量で相殺して実質ゼロにする「カーボンニュートラル」という考えです。

日本では、2020年10月に政府が「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」というカーボンニュートラル宣言をしたことで、国を挙げた取り組みとして動き始めました。

中小企業が脱炭素経営に取り組むべき理由

日本のみならず世界で取り組みが始まっている「カーボンニュートラル」ですが、日本の中小企業も無関係ではいられません。現在、世界的な大企業では、サプライチェーン全体での脱炭素経営に向けた取り組みを進めています。この取り組みの背景として、国際世論や金融機関から脱炭素経営に厳しい視線が注がれ、主導的な取り組みを求められていることが挙げられます。
例えば、アップルでは2030年までにサプライチェーン全体でカーボンニュートラルを達成すると発表し、サプライヤーに対して再生エネルギーの使用を求めています。すなわち、アップルとの取引を継続したい企業は、再生エネルギーの確保が必須となるいうことです。こうしたサプライヤーに対して大企業が脱炭素経営を求める流れは、今後より加速していくことが予想されます。もし脱炭素経営を行わない場合は、サプライチェーンから締め出される可能性も出てきます。

不安を煽るような書き方になってしまいましたが、前述した通り脱炭素経営は「未来に起こりうるリスクの低減と成長のチャンス」と捉えることが重要です。その視点から見ると、脱炭素経営を推進することにより下記のメリットを享受することが可能です。

1.優位性の構築

脱炭素経営に踏み出す1つ目のメリットが優位性の構築です。前述のとおり、今後大企業を中心に取引先に脱炭素経営を求める企業が益々増えると予想されます。これが意味するのは、新たな価値観の誕生です。例えば、品質は同等で、高コストながらも脱炭素経営に積極的なA社と、低コストながらも脱炭素経営に取り組んでいないB社があったとします。従来なら低コストのB社が取引先企業から選ばれていたかもしれませんが、今後は脱炭素経営を取り組んでいるA社が選ばれるようになるでしょう。この流れは、近い将来より加速していくことが予想されます。多くの中小企業がまだ脱炭素経営に踏み出していない現状を考えれば、先行者利益を得やすい今が絶好のタイミングです。

2.光熱費・燃料費の削減

2つ目のメリットは、非効率なプロセスや設備からの更新、再生エネルギーによる電力への切り替えを進めることによる光熱費や燃料費の削減です。照明のLED化や太陽光パネルの設置などが分かりやすい取り組みとなります。製造業を営む企業では、省エネの取り組みとして設備の見直しと運用の最適化をはかったことで、生産量を増やしながらも、ガスの年間消費量を半減させて、光熱費を1,000万円以上削減させた事例もあります。

3.知名度や認知度の向上

3つ目のメリットは、脱炭素経営に対して先駆的な取り組みを行うことによる知名度や認知度の向上です。特に地域の中小企業は、積極的に脱炭素経営に取り組む企業がまだ少ないため、地元メディアで取り上げられ、国や自治体からの表彰対象になることでポジティブな知名度や認知度を得られます。ある印刷会社では、先駆的な脱炭素経営の取り組みで成果を挙げてきたことから、メディアで紹介されました。その結果、会社見学の申請や、取り組みに共感した人や企業からの問い合わせや注文が増え、売り上げ増に繋がるなど多くの影響がありました。

4.社員のモチベーション向上や人材獲得力の強化

4つ目のメリットは、社員のモチベーション向上と人材獲得力の強化です。近年では働く会社に対して、社会貢献や社会課題に取り組む姿勢を求める人が増えており、脱炭素経営に積極的に取り組んでいくこともプラスに働きます。前述の印刷会社では、会社見学を定期的に受け入れたことで社員の自主性が高まりました。その見学を社員が企画したり、同業他社向けの脱炭素経営に関するセミナー講師を社員が担ったり、各社員の働くことへの意欲・自信の向上にもつながっています。

5.資金調達において有利に働く

5つ目のメリットが、金融機関からの資金調達において有利に働くという点です。金融機関のカーボンニュートラルに向けた施策として、企業の脱炭素経営支援が始まっています。具体的には融資先の選定条件に脱炭素経営への取り組み状況を加味し、脱炭素経営の目標達成状況により貸出金利などの融資条件を優遇するといった内容です。脱炭素経営を始めるのであれば、こうした取り組みを積極的に活用していくことも視野にいれておきたいところです。

今回はカーボンニュートラルや脱炭素経営に係わる言葉の整理、取り組みの背景や取り組むメリットを紹介してきました。カーボンニュートラルや脱炭素経営は、いずれも中小企業も取り組まなければならない大きな課題です。積極的に取り組むことで、自社を大きく発展させるきっかけになることもご理解いただけたのではないでしょうか。

また、金融機関からの資金調達においてもプラスに働いたり、補助金の活用ができたりと、中小企業が脱炭素経営に踏み出すための環境は整いつつあると言えます。次回は「中小企業が取り組むべき脱炭素経営とは?」と題して、中小企業の脱炭素経営の取り組み方や事例を紹介していきます。

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