ポストコロナに向けて日本社会が本格的に動き始ています。コロナ禍を境にビジネスの世界はどう変わり、今後どうなっていくのか、そして中小企業はどのような手を打つべきなのか、全5回に分けて紹介していきます。第1回は、ポストコロナを見据えた中小企業経営のキーワードといえる「パーパス経営」についての解説です。
ポストコロナに向けて日本社会が本格的に動き始ています。コロナ禍を境にビジネスの世界はどう変わり、今後どうなっていくのか、そして中小企業はどのような手を打つべきなのか、全5回に分けて紹介していきます。第1回は、ポストコロナを見据えた中小企業経営のキーワードといえる「パーパス経営」についての解説です。
ポストコロナに向けて日本社会が本格的に動き始ています。コロナ禍を境にビジネスの世界はどう変わり、今後どうなっていくのか、そして中小企業はどのような手を打つべきなのか、全5回に分けて紹介していきます。第1回は、ポストコロナを見据えた中小企業経営のキーワードといえる「パーパス経営」についての解説です。
●連載:ポストコロナの中小企業経営
第1回 【本記事】
第2回 カギを握るのは「人」。求められる人的資本経営
パナソニックやソニーなど日本を代表する企業が「パーパス」を制定し「自社の存在意義とは何か」を再定義しています。パーパスとは、英語で「目的」を指します。日本の経営においては、古くから経営理念や経営指針という形で会社の指針や原則が掲げられてきました。その上で、パーパスとは「理念を基にして表される、会社が存在する意味や根本的な理由」ととらえると分かりやすいでしょう。会社のメンバー全員が目標を追いかけていくための羅針盤といえる存在です。中小企業においてもその流れは加速し、多くの企業がパーパス経営に舵を切り出しています。
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「いい経営理念」が会社と社員にもたらすメリット
ではなぜ今、パーパスを制定する必要があるのでしょうか。最大の理由はコロナ禍を経て、事業運営の大前提が変わってしまった社会において、多くの企業が事業モデルを再構築する必要に迫られているからです。
また、「SDGsやCSR(企業の社会的責任)を積極的に行うべきである」という流れが加速する中、企業は規模の大小に関わらずステークホルダー(社員、取引先、顧客、社会、株主)への説明責任が求められます。自社がどのような存在であり、何のために存在するのかを自ら社会やステークホルダーにアナウンスし、理解をうながす必要が出てきていることも関係しています。
そして、人口減少がより加速する日本では、事業を再構築するだけでは企業が存続することは難しくなります。これまでのように「営利」のみを追求するビジネスでは、市場が縮小するなか永続的な発展は望めません。特に地域においては事業で収益をあげると同時に、山積する様々な社会課題を解決する取り組みが必要になります。
これからのビジネスは営利を追求しながら社会性を融合し、持続的な成長を図っていく取り組みが求められるのです。例えば運送業であれば、カーボンニュートラルへの取り組みは必須となり、取り組めない会社は存続自体が許されなくなっていくでしょう。
また、人口減少の進む日本においては人を大切にする経営が必要不可欠になってきています。コロナ禍において効果・効率を追求することで利潤の極大化を目指す経営が、いかに危機に弱いかが露呈しました。コロナ禍でロックダウンが発令された中で稼働しなくなった設備、人がいなくなったオフィスビルなど高いお金がかかる資産は皆、無力でした。その中で唯一環境適応する経営資源は、人だということが改めて証明されました。特にこれからの日本において課題を解決しながら新たな価値を創造できるのは人に投資をするしかないのです。
パーパス経営は一見、利益や業績とは相反する概念のように見られます。先日もある大手の企業がパーパスに沿って経営計画を発表すると株価が下落したという事例がありました。社会性を打ち出せば短期的な利益は減少し、一時的にコストも増加します。それでもパーパス経営を中小企業が行うことのメリットとは何なのでしょうか。
長期的に取り組むことで多くのメリットが生じることになりますが、ここでは代表的なメリットを幾つか挙げておきます。
・業界や地域に貢献する取り組みを行うことで賛同者が増える
・理念をアナウンスすることで賛同するステークホルダーの参画を促せる
・パーパスに共感した顧客が増加する
・取り組みを行うことでメディア掲載が増える
・同業者より採用に有利になる
・同じような考えを持つ企業と連携が図れることにより情報の量が増える
・営業活動やPR活動を行いやすくなり活動しやすくなる
など数えればきりはありませんが、少し考えただけでもいろいろ考えることができます。
これまで述べてきた通り、パーパス経営は活動の羅針盤として理想や社会性を大きく掲げ、誰のために何のために自社はあるのかを再定義することから始まります。当然、地域社会や業界、環境、関係する人々などに長期的に見てより良い影響を与えていくことが求められます。そうなるとどうして直近のコスト増や業績の低下を覚悟しなければいけません。
さらに掲げたパーパスが立派で、社会性が強ければ強いほど、経営者は厳しい視線にさらされることになります。例えばどれほど耳障りのいいパーパスを掲げても、裏では社員を使い捨てにしていたり、協力会社を大切にしていなければ、その瞬間に企業に対する信頼は失墜します。そして、その反動はパーパスを掲げている企業ほど大きくなり、一気に存続の危機に陥ることもあり得ます。その点からも、パーパスを掲げて経営することは経営者にとって覚悟が必要な取り組みといえます。
きれいごとだけでパーパス経営は実践されません。経営者のパーパスを掲げることへの覚悟が何よりも先に求められますし、常にビジネスモデルの変革を行い、環境適応を図る必要があります。
また、「パーパス経営」で高い理想を掲げる場合でも、ビジネスであるからにはきちんと利益を上げていかなくてはいけません。社会性を重視するあまり利益が出ないというのは本末転倒であり、ボランティアやNPO法人が担うべき領域になるからです。
では、パーパス経営を行うことで長期の業績にどのような影響があるのかを見ていきましょう。
以下の表において、前述したパーパス経営のメリットを、「売上」「経費」「見えない資産」として3つの業績貢献指数にそれぞれどのようなことが起こり得るのかということを整理しました。
業績貢献指標 | 内容 |
---|---|
売上 | ・パーパスをベースに商品、サービスを開発することで市場の賛同者が得られる ・長期的な関係をステークホルダーと築くことで優良な顧客となる ・関係が良好な顧客が増えることで納得した取引にて適性な利益が得られる ・社会性の高いビジネスモデルを構築することで大手との取引も可能になる ・同業者とのサービスとの大きな差別化要因となる |
経費 | ・パーパスを掲げることで支援者が増えPRがしやすくなる ・パーパスに賛同する人が採用しやすくなることから採用コストが抑えられる ・環境や社会に配慮することでエコな運用体制になることでコスト削減につながる |
見えない資産 (長期的業績貢献要因) | ・社会的信用が増えることで長期的なブランド構築につながる ・同業者に比して優秀な人材を採用することができる ・さまざまな機関と連携が可能になりネットワークの経済効果が得られる |
多くの業績に与える効果の中の一部ですが、パーパスに沿って長期的な取り組みを行うことでいかに事業が運営しやすくなるかがわかります。
優良な顧客との取引や連携先が増えることで、ネットワークの経済効果など結果的に多くの広告費や営業経費を使わなくても業績が向上することが見て取れます。
パーパス経営というと、名の知れた大企業が行う取り組みのようなイメージが少なからずありますが、中小企業こそ、業績に与えるプラスの影響が大きい取り組みといえます。覚悟さえ持てれば、すぐにでも取り組むべきでしょう。
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