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個人保証は外せるのか?
2021.07.08 | 事業承継

個人保証は外せるのか?

最近弊社のお客様でも保証人なしで融資を受けるお客様が増えてきていらっしゃいます。しかも、大企業に準ずる規模の大きな企業かと言えば売上高数億円の企業においてもですから、かつて金融機関に身を置いた私としては「時代は変わった」というのが率直な感想です。さて、ではどうしてこのような展開になってきたのでしょうか。

最近弊社のお客様でも保証人なしで融資を受けるお客様が増えてきていらっしゃいます。しかも、大企業に準ずる規模の大きな企業かと言えば売上高数億円の企業においてもですから、かつて金融機関に身を置いた私としては「時代は変わった」というのが率直な感想です。さて、ではどうしてこのような展開になってきたのでしょうか。

これまで中小企業金融においては経営者の個人保証はモラルハザードの観点から必要とされてきました。しかし、個人保証が事業承継やベンチャー企業の成長の妨げになっているとの観点から平成25年12月に「経営者保証に関するガイドライン」が制定されました。ガイドラインには法的拘束力はありませんが、金融機関や保証協会などの公的機関はガイドラインをもとに融資制度を設計してきています。

以下の表は政府系金融機関(日本政策金融公庫、商工組合中央金庫)の融資取扱い件数における無保証融資の件数や比率です。

表:政府系金融機関における「経営者保証に関するガイドライン」の活用実績

出典:中小企業庁HPより一部筆者加工

この表からは年々新規融資に占める経営者保証に依存しない融資の額や比率が年々上がっていることが分かります。ガイドラインでは以下の3つの点を経営者保証に依存しない融資の一層の促進するための対応として必要な経営状態として挙げています。

法人と経営者との関係の明確な区分・分離

主たる債務者は、法人の業務、経理、資産所有等に関し、法人と経営者の関係を明確に区分・分離し、法人と経営者の間の資金のやりとり(役員報酬・賞与、配当、オーナーへの貸付等をいう。以下同じ。)を社会通念上適切な範囲を超えないものとする体制を整備するなど、適切な運用を図ることを通じて、法人個人の一体性の解消に努める。

また、こうした整備・運用の状況について、外部専門家(公認会計士、税理士等をいう。以下同じ。)による検証を実施し、その結果を、対象債権者に適切に開示することが望ましい。

財務基盤の強化

経営者保証は主たる債務者の信用力を補完する手段の一つとして機能している一面があるが、経営者保証を提供しない場合においても事業に必要な資金を円滑に調達するために、主たる債務者は、財務状況及び経営成績の改善を通じた返済能力向上の向上等により信用力を強化する。

財務状況の正確な把握、適時的確な情報開示等による経営の透明性確保

主たる債務者は、資産負債の状況(経営者のものも含む。)、事業計画や業績見通し及びその進捗状況に関する対象債権者からの情報開示の要請に対して、正確かつ丁寧に信頼性の高い情報を開示・説明することにより、経営の透明性を確保する。なお、開示情報の信頼性の向上の観点から、外部専門家による情報の検証行い、その検証結果と合わせた開示が望ましい。かた、開示・説明した後に、事業計画・業績見通し等に変動が生じた場合には、自発的に報告するなど適時適切な情報開示に努める。

つまりこの3つを満たせる企業の場合既存の個人保証も免除できるということになります。あくまでガイドラインですので抽象的でわかりにくい表現も多く、その運用は各金融機関が判断するため取り上げについては栃木県内の金融機関においては幅があるように受け取れます。今後さらに個別の事例が出てくれば各金融機関においてもより具体的な基準が明確になってくるでしょう。そして、この流れは加速度的に進んでいきますので、今後どのようなことが起こってくるのか想定し、経営者が注意しておく点を以下にまとめてみました。

経営計画や月次の情報開示がより重要になる

経営をきっちりとやらないと保証人云々ではなくて金融機関からの借入自体ができない時代になってきます。保証人なしの融資では経営計画や事業計画書を立案し金融機関に提出し、進捗を定期的に共有していくことが求められます。これまでのように試算表のみ提出すれば融資が受けられる時代ではなくなるということです。

親族以外の社員に継ぎやすくなる

中小企業において代表者以外の経営幹部に事業を引き継ぐ際の保証人が事業承継の妨げになってきました。もともと、親族外の経営幹部の多くはそれほど役員報酬もとっていないですし、資産も自宅(住宅ローンが残っている)ですので実質は保証人をとっても債権保全という観点からはそれほどの保全にはなっていないにも関わらず承継時の条件になるケースが多く見受けられました。保証人が免除されれば事業を引き継ぎ代表者になってもよいという経営幹部は私の知る限りでも多いです。

財務特約条項(コベナンツ)

保証人免除の際の条件として多くの融資のケース見受けられるようになりました。これを案外軽視してしまうのですが、実際の内容を見ていくと免除する代わりにかなりの制約が付加されてきます。例えば繰り上げ返済時における返済違約金や業績についての制約など何かあった時には一気に不利な状況になりそうな条項が並びます。また、保証人免除を条件に一行取引を働きかけてくる金融機関も多いので注意が必要です。メインバンク制度が崩壊した今日、ある程度金融機関は選べた方が良いのです。

手数料がかかる

取扱いに融資手数料がかかるケースが多いです。金利が低い分手数料という名目で最初に費用が掛かるパターンです。これまではシンジケートローンや私募債等の調達において一般的でしたが今では様々な融資に手数料が上乗せされるようになってきています。この手数料も調達やリファイナンスのたびにかかっていたのでは一見金利が安く見えても費用高となってしまいますのでよくよく考えて取り扱うようにしましょう。

まだまだ保証人を供した融資が一般的ですのでどうすれば免除されるのかという議論には数多くの事例や時間が必要になってくるのだと思います。そして事業承継を行うにあたっては、金融機関に頼らなくてよい事業運営を心掛けることが何よりも重要です。

水沼 啓幸
Writer 水沼 啓幸
水沼 啓幸
Writer 水沼 啓幸 ()
代表取締役 
中小企業診断士  MBA(経営学修士)  JMAA認定M&Aアドバイザー
2000年3月に高崎経済大学経済学部経営学科を卒業し、同年4月株式会社栃木銀行へ入行。主に、融資、法人営業を経験し、事業承継、中小企業金融に精通している。また、大学院では中小企業において今後問題化すると予想される『後継者の育成方法の研究やその支援の在り方』について深く研究する。2010年4月に財務・金融、事業承継支援を専門とするコンサルティング会社 株式会社 サクシードを設立し代表取締役に就任。2014年より日本で一番の経営人財の養成機関を目指して「とちぎ経営人財塾」を開講、次世代経営者の育成をテーマに活動し、年間80社以上の経営計画策定支援業務を行っている。2020年1月より地域の成長意欲の高い企業を地域資源としての中小企業の引き継ぎ手として登録、PRする地域特化型M&Aプラットフォームサービス「ツグナラ」をローンチ、事業承継をテーマに地域課題の解決を図るべく活動を行っている。
現在、作新学院大学 客員教授、人を大切にする経営学会 事務局次長として全国のいい会社を訪問し次世代の企業経営の在り方について研究活動を行っている。
著書に「地域一番コンサルタントになる方法」出版(同文館出版)、「キャリアを活かす!地域一番コンサルタントの成長戦略」(同文館出版)「後継者の仕事」(PHP研究所)「さらば価格競争」(商業界)共著、「日本のいい会社」地域に生きる会社力(ミネルヴァ書房)共著、「いい経営理念が会社を変える」(ラグーナ出版)「ニッポン子育てしやすい会社~人を大切にする会社は社員の子どもの数が多い~(商業界)共著、「実践ポストコロナを生き抜く術!強い会社の人を大切にする経営」(PHP研究所) 、「事業承継 買い手も売り手もうまくいくリアルノウハウ」(ビジネス社)共著、その他帝国ニュース(帝国データバンク)近代セールス(近代セールス社)等連載執筆多数。

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