社会のデジタル化が進む中で、DX(デジタル・トランスフォーメーション)化の推進は、あらゆる業界で叫ばれています。さらにいえば、業界のみならず、会社の規模の大小を問わずにDX化が求められてくるのがこれからの世の中になります。中小企業にとって、DX化を進める大きなきっかけであり、チャンスになるのが、M&Aによる企業合併後(PMI/Post Merger Integration)のデジタル統合になります。今回は、PMIの過程における正しいデジタル統合と題して、解説していきます。
社会のデジタル化が進む中で、DX(デジタル・トランスフォーメーション)化の推進は、あらゆる業界で叫ばれています。さらにいえば、業界のみならず、会社の規模の大小を問わずにDX化が求められてくるのがこれからの世の中になります。中小企業にとって、DX化を進める大きなきっかけであり、チャンスになるのが、M&Aによる企業合併後(PMI/Post Merger Integration)のデジタル統合になります。今回は、PMIの過程における正しいデジタル統合と題して、解説していきます。
ひとたびM&Aが実行されると、PMI(Post Merger Integration、企業合併後の統合)のプロセスに移行することになります。
異なる企業文化を持つ2社を統合していく過程の中でも、重要な位置付けを占めるのがデジタル環境の統合です。企業合併によって、複数のシステムやプロセスはほぼ100%混在することになりますが、その状態が続くことは生産性の観点からも、また費用的・人的コストの観点からも避けるべきであり、できるだけ早期に統合することが求められます。ここでは、PMIのプロセスにおけるデジタル活用のあり方について説明します。
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PMIを進めていく上での大前提として、M&Aの目的やビジョンが明確になっていることが必須となりますが、デジタルの活用の観点から見ても、統合によりどのような成果を得たいのか、どのようなプロセスを改善するのかなど、目標が具体化していることがポイントとなります。その上で、デジタルツールの活用により、両社のビジネスプロセスを統合することを目指していくことになります。
例えば、ERP(基幹システム:複数の業務を横断して管理するシステム)が導入されている企業同士では、これらを統合できれば、生産、在庫、購買、販売などの業務プロセスを統合することが可能となります。また、ERPまでは導入していない企業でも、顧客管理システムや会計システム、販売管理システムなど単体業務システムは導入済みである企業が多いことでしょう。これらのシステムについても、同じシステムが稼働している確率は低いため、いずれかのシステムに統合する、あるいは新たなシステムを選定して移行するといった作業が必要となります。
また、現状では業務フローがデジタル化していない企業同士のM&Aの場合は、サイボウズOfficeやジョブカンワークフロー等のワークフロー管理システムの導入によって、業務プロセスの可視化・共有化が促進される効果を期待できるでしょう。
このプロセスを進めていくための最初の作業として、まずは、両社のビジネスプロセスを整理して、類似性や相違点を洗い出しましょう。この作業を行うことにより、プロセスの統合方法や改善点が明確になります。
上記のビジネスプロセスの統合と関連する事象として、企業合併によりデータが会社単位で並列で存在するという事態が往々にして発生します。例えば、顧客情報が別々のシステムで別々のフォーマットで存在しているといったケースです。これらのデータを統合し、重複や不要なデータを削除することで、システムの効率性や品質を向上させることができます。
また、2社間でデータの共通化や標準化が実現すれば、より大きなデータを使った、分析や戦略分析、意思決定が可能になります。将来的にビッグデータ分析やAI技術を活用するためのデータ基盤にもなってきます。この実現のためには、データ統合ツールの導入や、データレイク・データウェアハウスの構築などが考えられます。
両社で使用されているERPや各種業務システム等アプリケーションの中から、機能や利用頻度、コストなどを比較し、必要に応じて統合を行います。統合により企業規模は大きくなることから、現状よりもより大きな規模に対応できるアプリケーションを選択する必要が出てくることも考えられます。
また、クラウド型のシステムであれば、アプリケーションを一本化するのではなく、既存のアプリケーション間でのデータ連携を図り、あたかも一つのアプリケーションのように動作させることも可能です。この場合に活用できるのがAPI(Application Programming Interface)でアプリケーション間を直接連携させる方法や、RPA(Robotics Process Automation)によるアプリケーション間の手作業での情報連携を自動化する手法です。このような手法を併用して、段階的な統合を行っていくことも検討の余地があるでしょう。
ここまでに触れた3つの面からの統合と比べると見過ごされがちですが、企業合併によって、セキュリティ上のリスクが高まる場合があります。この解決にもデジタル導入によるセキュリティの強化が寄与します。
考えられる選択肢のひとつとして、統合脅威管理(UTM)の導入が挙げられます。UTMは、高機能なファイアウォール、VPN、侵入検知、ウイルス対策、スパムフィルタリング、Webフィルタリングなど、複数のセキュリティ機能を1つの装置で提供するために使用されます。UTMは、さまざまなセキュリティ機能を単一のハードウェアまたは仮想アプライアンスにまとめることで、管理の簡素化、セキュリティレベルの向上、コストの削減などのメリットがあります。PMIにおいては、複数の拠点での通信・セキュリティ管理を行う必要があるため、これらの導入によりその運用を可視化・省力化することに繋がるでしょう。
さらに高度な対応が必要な場合は、UTMの機能に加えてPCやサーバ・ネットワーク機器及びソフトウェアの動作状況の記録(ログ)を一元管理し、さらに分析を行ってリアルタイムで検知・通知を行えるセキュリティ情報イベント管理(SIEM)システムを導入することで、セキュリティインシデントの管理、報告、アラートの生成など複数のセキュリティ関連タスクをまとめて管理することができます。
以上のように、PMIにおいては、デジタル導入がビジネスプロセスやデータの統合、セキュリティ強化などの面で重要な役割を果たします。企業合併後の統合においては、デジタル導入を積極的に推進することが、効率的かつ効果的な統合の実現につながると考えられます。
その一方で、PMIの過程においては、デジタル環境以外にも多くの変化が発生します。これらの変化に対してデジタル側も柔軟に対応できるよう、「あるべき論」だけでプロセスを進めるのではなく、実施中に発生した変更点に追従できる統合プロセスを立案・実行していくことが重要です。
さらに、統合作業は一度完了すれば終了というわけではなく、継続的な改善が求められます。統合後のシステムの監視や問題解決、顧客からのフィードバックの収集などを行い、システムの品質向上やビジネスの成長の糧とすることで、単なる統合のプロセスにとどまらない、企業全体としての提供価値の向上につながるのではないでしょうか。
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