ツグナラ
円滑な事業承継のカギとなる金融施策の活用
2021.06.13 | 事業承継

円滑な事業承継のカギとなる金融施策の活用

現在、中小企業に対する経営支援施策は有事ということもあり、補助金、助成金、融資制度などこれまでにないの施策がなされています。特に資金繰り円滑化対策として、日本政策金融公庫などの新型コロナ対応制度融資、民間金融機関の信用保証協付融資であるゼロゼロ融資(金利、保証料免除)は中小企業の資金繰り円滑化に大きく寄与しています。

現在、中小企業に対する経営支援施策は有事ということもあり、補助金、助成金、融資制度などこれまでにないの施策がなされています。特に資金繰り円滑化対策として、日本政策金融公庫などの新型コロナ対応制度融資、民間金融機関の信用保証協付融資であるゼロゼロ融資(金利、保証料免除)は中小企業の資金繰り円滑化に大きく寄与しています。

引き継ぎたくても引き継げない状況に陥らないためにできること

栃木県内企業においても以下の表より信用保証協会の残高がかつてない水準で推移しています。

『栃木県信用保証協会 保証だより10月号より』

経営者の心理として、調達できるのであれば手元流動性預金を厚くしておこうとの考えが働いていることも一つの要因です。しかし、金利や保証料の免除が受けられても、企業経営において借入比率が高まれば将来に向けて倒産リスクは上がることは当然と言えます。

そのためか、借入が増えた状態で後継者に引き継ぐことができないと先送りする、社員への承継を断念するなどのケースも増えています。さらに、M&Aを活用した承継においても新型コロナの影響により一時的な赤字、かつ借入が増えた会社は譲渡が難しくなってしまっています。辞めたくても辞められない環境に多くの中小企業が現在置かれつつあります。

そのような中で、企業はどのように金融分野における変化をとらえどう事業承継に取り組めばよいのかについて述べてまいります。

資金繰り支援と資本性劣後ローンの活用

矢継ぎ早に資金繰り施策が打ち出される中、8月に日本政策金融公庫において「新型コロナ対策資本性劣後ローン」が制度化されました。劣後ローンとは借入を債務から自己資本に見立てる(金融機関の審査において)という金融手法です。これまでは主に企業再生の分野で改善過程にある会社などに活用されてきました。金融機関から見た自己資本比率が向上することから財務の安全性が高まり、新たな運転資金や設備資金が金融機関でも行えるようになるなど利点があります。

これまでも同じ制度はありましたが、金利が高い、期間が限られているなどの制限がありました。今回は最長20年、金利もこれまでよりも安く設定されています。これにより一時的に苦境に陥り、資金繰りが悪化した企業でもこの制度を活用することで追加の運転資金を受けやすくなる、約定返済を将来業容が安定した時点に繰り延べできることから前向きに事業に取り組んでいくことが可能になります。

このような新しい金融施策についても活用し経営の改善やさらなる成長を志向していくことが経営者には求められます。

地域金融機関による経営支援の活用

しかし、いきなり財務や金融のノウハウを得ることは難しい現実があります。そこでまずは、取引金融機関や専門家の知見を活用し施策を活用していくことが一つのポイントになってきます。

金融庁も8月末に発表した「令和2年事務年度 金融行政方針」の中で中小企業の経営改善・事業再生支援について協力に推進することを地域金融機関に促しています。さらに、今後は地域の事例を各金融機関で共有化し、様々な施策を活用しビジネスマッチングや事業承継の支援を行っていくことを求めています。10月には金融庁より企業支援に取り組む金融機関人材の育成を行っていくとのアナウンスを行いました。(NHKより)具体的には今後、各地域で経営支援についての改善事例などの知見を結集して研修会やイベントを開催していくこととなっています。

事業承継を含む中小企業経営において、数多くの施策をどのように活用するかが経営者には求められます。そして、その取り組みについてそれぞれ会計事務所や金融機関、外部専門家と連携して前に進んでいくことが大切です。

連携や資本提携など多様になった第3者承継の活用

また、M&Aによる第3者承継において大きな変化が想定されます。今後、当分は事業価値算定も難しく、借入も増加しているため譲渡価格は下がります。M&Aによる承継を行いにくい状況が続き、受ける側も躊躇する環境が継続していくでしょう。

今後経営者のモチベーションが落ちてくればどこかで「自己破産でもいいからやめたい」「個人資産で穴埋めできるうちに辞めよう」というムードになってきます。その際に、販路や、技術、社員を地域資源とみなして引き継ぐ側も連携や資本提携で時間軸をもって事業承継を行う事例が増えてくるでしょう。

具体的には一部株式の譲渡から初めて資本参加してお互いに販路を共有する。または、社員や取引先だけを譲渡するケースなどこれまでとは違った形での事業承継が行われるでしょう。もはや経営者が若い企業や成長ステージにある企業にとっても事業承継やM&Aは他人ごとではないのです。本記事が掲載されている「ツグナラ」には外注先の引継ぎや、取引先の引継ぎの相談はこのコロナ禍において逆に増加の一途をたどっています。

今まさに世の中の仕組みや経営の手法が大きくわかるターニングポイントです。経営者の皆様方は希望を失うことなく前向きに、ポストコロナに向けて前に前に進んでいただくことを切に願います。

水沼 啓幸
Writer 水沼 啓幸
水沼 啓幸
Writer 水沼 啓幸 ()
代表取締役 
中小企業診断士  MBA(経営学修士)  JMAA認定M&Aアドバイザー
2000年3月に高崎経済大学経済学部経営学科を卒業し、同年4月株式会社栃木銀行へ入行。主に、融資、法人営業を経験し、事業承継、中小企業金融に精通している。また、大学院では中小企業において今後問題化すると予想される『後継者の育成方法の研究やその支援の在り方』について深く研究する。2010年4月に財務・金融、事業承継支援を専門とするコンサルティング会社 株式会社 サクシードを設立し代表取締役に就任。2014年より日本で一番の経営人財の養成機関を目指して「とちぎ経営人財塾」を開講、次世代経営者の育成をテーマに活動し、年間80社以上の経営計画策定支援業務を行っている。2020年1月より地域の成長意欲の高い企業を地域資源としての中小企業の引き継ぎ手として登録、PRする地域特化型M&Aプラットフォームサービス「ツグナラ」をローンチ、事業承継をテーマに地域課題の解決を図るべく活動を行っている。
現在、作新学院大学 客員教授、人を大切にする経営学会 事務局次長として全国のいい会社を訪問し次世代の企業経営の在り方について研究活動を行っている。
著書に「地域一番コンサルタントになる方法」出版(同文館出版)、「キャリアを活かす!地域一番コンサルタントの成長戦略」(同文館出版)「後継者の仕事」(PHP研究所)「さらば価格競争」(商業界)共著、「日本のいい会社」地域に生きる会社力(ミネルヴァ書房)共著、「いい経営理念が会社を変える」(ラグーナ出版)「ニッポン子育てしやすい会社~人を大切にする会社は社員の子どもの数が多い~(商業界)共著、「実践ポストコロナを生き抜く術!強い会社の人を大切にする経営」(PHP研究所) 、「事業承継 買い手も売り手もうまくいくリアルノウハウ」(ビジネス社)共著、その他帝国ニュース(帝国データバンク)近代セールス(近代セールス社)等連載執筆多数。

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